「友だちが始めたお店で、よくわからない健康食品を買っちゃって……」
督促の電話に出たお客さまの口から発せられた言葉を聴いて、私は思わず言葉に詰まりました。
受話器の向こうから聞こえてくる、男性にしては高くてか細い声。まるで息も絶え絶え、といった様子なのですが、どうやらそれが、このお客さまの普段からの話し方のようでした。
何を買おうとお客さまの自由だけど
念のため、「それは押し売られたとか、無理やり買わされたわけではないんですね?」と確認してみましたが、
「あぁ……、それはないです」
「それでは、ご納得のうえで?」
「……買いました」
断言はされたけれど、どこかキッパリと言い切れない物言いが、断りきれなかった後悔を表しているような気がしました。私は「次のボーナスまで支払いを待ってほしい」という申し出を承諾して、交渉の記録をパソコンに打ち込みました。
(この人、きっと優しい人なんだろうなぁ)
入金の記録を見ると、たまに支払いが滞ることはあっても、ほぼきちんとお支払いを続けています。当然カードは使える状態なので、限度額いっぱいに健康食品を買おうが、驚くような値段の絵画を買おうが、口を出せる事ではありません。
私たちは立て替え払いをしているだけ。詐欺や法律に触れる方法で売られた商品なら別ですが、売買に関するトラブルの処理は、基本的にお客さまとお店の間で行っていただかなければなりません。納得のうえで買った商品なら、なおさらです。
(でも、こんなに高額の健康食品を買わせるなんて、どんなお友だちなの?)
督促の仕事をしていると、時おり、こんな心根の優しそうなお客さまと巡り合います。こちらのお願いにも本当に素直に答えてくださり、言葉を荒げたりしません。その優しさに付け込まれる形で買い物をして、カードの支払いができなくなったとき、電話をかけて「お金を払って下さい」と言うのも、私たち債権回収を行う者の仕事です。
電話口で泣きながら謝られたことも
「商品の代金がお支払いできなくて、本当に申し訳ありません!」
「えっ……。ホントそんなに謝らないで下さい」
「なんとしてでもお金を作りますから。今、野菜を売り歩いて資金を作っているところですので……」
ある時、督促の電話をかけた60代後半の女性。できれば借金などとは無縁で過ごしていて欲しい、人のよさそうなお婆さんでした。このお客さまに電話口で泣きながら謝られたとき、私は自分の仕事を恨みました。
カードの利用は、ほんの数万円。でも雪深い地域に住んでいるので、日々灯油を買うお金が何よりも優先されて、支払いに回す余裕がありません。けれど私は、このお客さまが入金されるまで電話を続けなければなりません。
「私の責任ですから、必ずお支払いします」。若い女性と逃げてしまった旦那が残した借金を、任意で何年もかけて返済している女性。「今度、ちゃんと友だちに連絡してみます」。お友だちにお金を貸したけれど返してもらえなくて、生活のためにカードを使っている男性もいました。
私が電話をする、お金を返したくても返せないお客さまの中には、こういった「いい人」がたくさんいます。そして、そんなお客様の払う利息からも、私たちはお給料をいただいているわけです。
(お金は怖いな。この人にはお金に苦しめられない生き方をして欲しい……)
私が言うのもおこがましいですが、優しいお客さまにお会いする度に、そう願わずにはいられないのです。
N本(えぬもと)