10.15デモの空振りに見る「反貧困」ブームの終焉

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   先日、「オキュパイ・トウキョウ」というフレーズのもと、「ウォール街デモ」に呼応したデモが都内でも催されたが、参加者はトータルで200名前後にとどまったそうだ。

   「格差是正」に加えて「反原発」まで取り込んでこの結果ということは、完全な空振りと言っていいだろう。筆者はそこに、派遣村に始まる一連の「反貧困」ブームの終焉を感じる。正社員労組が政権バックについて、派遣村村長が内閣府入りしても、状況は何も変わっていないのだから無理もない。

「ウォール街デモ」真似てどうするのか

   派遣村で一気にその知名度を高め、一時はメディアで目にしない日はないというほどクローズアップされた反貧困運動だが、最近ではその名を耳にする機会もほとんどなくなった。

   理由は簡単で、日本には分かりやすい悪役がいないから。

「派遣事業を規制しろ」

と要求していた人たちは、派遣労働者が減っても正社員が増えていない現実に対して、誰に文句を言っていいのかわからない。

「小泉政権で格差拡大」

なんて言ってきた人たちは、いまさら連合を支持基盤とする現政権に、デモを仕掛けるわけにもいかない。

   かつて麻生邸に冷やかしに行った人たちは、貧乏くさい野田さんの家に行ったって仕方ない。経産省や東電という何をしたいのかよくわからないコースは、そのまま彼ら自身の迷走ぶりをあらわしている。

   そもそもデモというのは人権や利益分配という点で、搾取されている側が搾取している側に対して起こしてはじめて意味がある。そういう意味では「中東の春」は立派なデモだったが、「ウォール街デモ」はデモではない。

   ウォール街と一般市民の間にいかなる「搾取-被搾取」の関係も成り立っていないから、ウォール街を潰して更地にしても一般市民が豊かになるわけではない(むしろ税収が減る分、貧しくなるだろう)。

   ターゲットとして分かりやすいから流行ってはいるが、時間の無駄だと気付いた人から抜けて下火になるだろう。もともと金融の弱い日本で真似するのは、さらなる時間の無駄である。

もっとはっきりした「搾取」に仕掛けるべきだ

   ただ筆者は、日本人、特に若者は真に有効なデモを打てる余地があると考える。それは、以下の2つの点で立派な「搾取-被搾取」の関係が社会に成立しているからだ。

・非正規労働者と正社員
   同じ業務をこなしながら、ボーナスも昇給も雇用保証もない非正規雇用労働者からは、生産性以上に報酬を受け取っている終身雇用の正社員に対して、所得移転が行われていることになる。つまり、これが搾取だ。
・若年層と高齢者
   たとえば厚生年金では70歳と30歳では5千万円近い差額が存在するにもかかわらず、政府は将来における支給開始年齢の引き上げを計画し、この差をさらに拡大させようとしている。社会保障全体を含めれば、70代と選挙権のない次世代では、実に格差は1億円にも上る。これこそ、現代日本に存在する最大の格差であり、搾取だ。

   だから本当に意義のあるデモを起こすなら、仕掛ける相手は、雇用の格差を容認する連合や経団連であり、世代間格差を放置し続ける厚労省および、民主党から共産党までのすべての政党であるべきだ。

   社会を変えたいと願うなら、問題解決について自分の頭で考えるしかない。その際、右か左かなどというのはまったく意味のない論点で、今、若者が行うべきなのは世代間闘争である。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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