スティーブ・ジョブズは本当に天才だったのか

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   ソフトバンクの孫正義社長による、スティーブ・ジョブズの追悼インタビューを読んだ。「スティーブは天才」といい、「彼の生み出したものは芸術作品」「仕事のためにとか、お金のためにとか、そういうにおいをいささかも感じない」と述べている。

   もちろんそういう芸術肌の天才の面があったことは事実だろうが、アップルという会社を成功に導き、一時はエクソン・モービルを抜いて時価総額で世界一に押し上げた経営者として、それだけではない相当な野心家の面もあったことだろう。

あるものを組み合わせたプロデュースが得意

   ジョブズに対する批判として、特段新しい技術開発したわけでもないし、新しい商品カテゴリーを生み出したわけでもない、といわれることがある。

   そもそも最初のパソコンを開発した技術者は相棒のスティーブ・ウォズニアックだったし、その後もジョブズの名の陰に隠れたアップル社員や、非常に優れたデバイスを提供したアップル以外の部品会社の技術者の力なくしては、数々の製品やサービスは生まれなかった。

   アップルはジョブズひとりではないし、天才はジョブズだけではなかった。

   しかし、彼がすでにあるアイデア、手に入りやすいデバイスを組み合わせて、格好良く、新しいライフスタイルや利便性を発想するきっかけとなるモノをつくった(プロデュースした)ことは事実だ。

   手に入りやすい部品を使って、すでにあるアイデアにユーザー視点で目新しい部分をプラスし、使う人の新しい創造性を生み出すきっかけをつくったという点は、レオ・フェンダー(エレクトリックギターメーカー、フェンダー社創業者)に通ずる。

   フェンダーがつくった、あるいはプロデュースした製品は、ライバルのギブソン社がつくるものより見た目はチープだし、構造もシンプルだが、頑丈で扱いやすく、それゆえに新しい奏法やパフォーマンスを使う者に着想させた。

   ユーザーに新しいスタイルや使い方を「発明」させるような製品をマーケットに投下する。アメリカのモノづくりが本来もっていたアドバンテージを、iPodやiPhoneというかたちで再び提示し、成功させたことが、今回のアメリカでの大規模なジョブズ追悼=リスペクトにつながっているのではないだろうか。

見逃せない「最後まで諦めない性格」

   また、ジョブズは、個々の戦いで負けても、最後まで勝負を諦めなかった。

   いまでこそ成功者の頂点のように見られているが、我欲が強く、野望を持ち、優秀な相棒を伴って名乗りをあげた20代には、若くして成功したことで慢心し、周囲との協調を欠いた挙げ句、見離され、自らが創業した組織から放逐されてしまう。

   浪人のような時期を経た後、新たに自分の旗を立てるも、以前ほどの成功には恵まれなかった。新しい会社で開発したNeXTは売れず、買収したピクサーも、当時はほとんど仕事がなかった。

   この頃のジョブズは、IT界きってのヒール(悪役)であり、かつての相棒であるウォズニアックやビル・ゲイツのほうがベイビーフェイスとしてもてはやされていたほどだ。

   もちろん、その後のピクサーの躍進は知っての通りだし、NeXTの蓄積が後のiPhone OSの成功につながっていく。先見性、と言ってしまえば簡単だ。だが、勝負を諦めなかったからこそ後付けで先見性と評価されるのであり、人間関係で辛酸を舐めたがゆえに、自らこだわり抜き、最後まで諦めずに突き進む生き様に覚醒したのではないかと想像する。

   紆余曲折を経てアップルに復帰するや、ライバルのゲイツと電撃的な和解をするとともに、クーデターを起こして経営陣を刷新。後に思えば、これこそが自分の戦いを有利に進めるための、最大の「リストラ」であった。人との関係性のなかで、どのように自分を活かしていくか。この辺りの手際は、手練の武将のように狡猾、巧妙としか言い様がない。

   「最低でも3回はノーと言う」といった部下の操縦法、圧倒的なプレゼンテーションなど、ジョブズの経営者としての語り口は数多ある。

   だが、アメリカ人の底流に流れる合理的なモノづくりの精神、戦国武将のように最後まで勝負を諦めない性格、この2つこそが、ジョブズをして稀代の経営者たらしめたプリンシプルだったのではないかと思う。

井上トシユキ

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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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