もう勘弁してよ! ツイッターで「今日はズル休みで~す」

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   ホテルの従業員が落し物のサイフから札を抜き取ったうえ、ツイッターで実況中継し「罪悪感なう」と書き込んだ事件が話題になった。ソーシャルメディアには、妙な「吸引力」があるようだ。

   ある会社では、社員がソーシャルメディアに不用意な書き込みをするので、クライアントから数々のクレームを受けているという。

クライアントに知られて叱られてしまう

――派遣会社の人事担当です。今年に入ってから、派遣スタッフがソーシャルメディアを利用したことによるトラブルの報告が相次ぎました。

   ツイッターやフェイスブック、ミクシィなどの書き込みを、クライアントの関係者が目にして、会社にクレームを入れてくるというのです。

   最初に問題になったのは、派遣SEのツイートでした。「今週はシステム復旧作業で連日徹夜。もう倒れそう…」という書き込みを目にしたクライアントの担当者が、

「うちのシステムトラブルが、お客の目に止まったらどうするんだ。それにウチがブラック会社と思われても迷惑だ!」

と怒鳴り込んできたのです。連日徹夜というのは事実なのですが、それを派遣スタッフ経由で外に漏らされたくないということでした。

   また、体調不良で有給休暇を取得した派遣事務職が、フェイスブックに

「今日はお客さんにウソついて、ズル休みで~す」

と書き込んだり、急ぎの報告書を提出していない営業マンが、ミクシィに「六本木のキャバクラFで飲んでるよ。みんな集合!」と書き込んだりして、そのたびになぜかクライアントに知られてしまい、担当が叱られるわけです。

   トラブル回避のために、当面はソーシャルメディアへの書き込みを全面禁止にしようと思いますが、本当にこういうやり方でトラブルは根絶できるものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「ツイッターの実名禁止」など簡単なルールを守らせる

   ソーシャルメディアの使用は、原則として社員個人の自由とすべきですが、使用がきっかけで事業に悪影響が出ているのであれば一定の制限を検討せざるをえません。とはいえ使用禁止を通知しても、匿名での利用も可能なので完全に封じることは難しいものです。派遣会社ですと人の出入りも多いでしょうし、水面下での利用も想定されるので、トラブルが生じにくい基本ルールを設け、それを徹底して守らせるほうがよいのではないでしょうか。

   一番問題となるのは、仕事や会社に関する情報が漏れることなので、まずは「プライベートでの利用のみとすること」「仕事関係者とはつながらないこと」という原則を作ることが最も簡単なルールです。その上で、「仕事に関する書き込みは一切ダメ」「ツイッターは実名での利用禁止」「フェイスブックは仕事関係者との『友達』禁止」などとすれば、これまであったようなトラブルはとりあえず回避できると思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
節度を持った利用を許容するメリットはある

   ソーシャルメディアの利用方法を制限することは、その楽しさや有用性を半減させる場合があります。広報やマーケティング、人事など、社外とのコミュニケーションを伴う仕事に携わっている場合、仕事にも有効に活用できる可能性があります。同じ職種の人たちとつながることで、仕事の専門性を高める効果も期待できます。ビジネスでのやり取りをベースにしつつ、プライベートの情報を明かすことで、擬似的な「懇親会」を開いたような親密な関係を築くこともできます。

   そもそも「連日徹夜」や「ズル休み」は、ソーシャルメディア以前の問題です。普通に誠実な職業生活を送り、節度をもった書き込みをしている人にまで、会社がとやかく言うべきではないでしょう。将来のキャリアアップにつながる人脈を拡大するチャンスにもなりえます。節度を持った利用を許容しつつ、問題となるケースを指導・教育などで予防する方がよいのではないでしょうか。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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