大混乱のヨーロッパとこんなに似ている日本

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   リーマン・ショックから3年が過ぎたが、先進国の経済は厳しさが増していっている。中でもヨーロッパ経済は予断を許さない事態となっている。

   統一通貨ユーロ、ギリシャ、移民といった問題に苦しめられているヨーロッパは、一見すると日本と全く異なる状況にあり、対岸の火事のようにも思える。しかし、本質的な所では日本はヨーロッパと多くの共通点を見出すことができる。

   ひとことで言うと、「活力に欠け、経済が停滞している」ということだ。どうしてそういう状況になったのか。米国と比較すると、その理由が明らかになってくる。

米国に比べイノベーションに欠け、サービス業が弱い

   ひとつめは、日本とヨーロッパは米国と比べて「イノベーションに欠ける」という点だ。

   過去四半世紀ほどの間に生まれた世界の代表的な企業には、アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどがある。これらの企業は、単に大きな利益を生み出しているだけでなく、学問、余暇、ビジネス、人間関係など人間の生活の根本に広範な影響を及ぼしている。

   彼らはすべて米国企業であり、日本はもとよりヨーロッパでも、このような革命的な企業は出ていない。米国ではベンチャー企業を社会全体でバックアップする態勢があり、それがこのような企業たちを育てることにつながっている。

   しかし日欧では、一部を除いてそういった環境が備わっているとは言い難い。アップルの時価総額が米国トップになったのに、東証の時価総額のトップ10に新興企業がひとつも入っていないことにもその違いはあらわれている。この問題を考えていくと、結局は教育制度や文化の問題に行きつくことになる。

   ふたつめは、日欧の「サービス業が弱い」という点だ。

   通信、金融、ホテル、マスコミ、エンタテイメント、小売りなど、サービス業が先進国経済の中心になって久しいが、この分野でも米国が圧倒的に強い。ヒルトン・ホテルに泊まり、ビザ・カードで買い物し、ハリウッド映画を観てからKFCで食事をし…、という「アメリカ漬け」ともいえる生活を送っている人が世界中に(もちろん日本にも)いる。

   日本は「旅館のおもてなし」といった人的サービスは素晴らしいが、それを普遍化して世界中にビジネスとして展開することが苦手だ。ヨーロッパも、サービス業のビジネスモデルがそれぞれの国境に縛られていて、世界を相手にするところまでなかなかいかない。

   多種多様な世界の人々にサービスを提供するためには、サービスを標準化することが必要である。そのノウハウを構築した米国の独り勝ちという状況がまだまだ当分続きそうだ。

過去の栄光にすがれば「変化は悪夢」

   日欧に共通する弱点は、他にもある。例えば政府への依存度の高さだ。「大きな政府」「福祉国家」という発想が根強い日本とヨーロッパでは、独立独歩の精神が育ちにくい。そこにはどうしても甘えが生じるし、財政支出も大きくなりがちだ。

   一方、歴史と伝統と重んじる日本とヨーロッパには「変わらないこと」のよさがある。文化の多様性や深みは魅力的だし、それに比べるとアメリカ文化が浅薄なものに見えるのも事実だ。

   しかし、否応なく進むコンピュータ化、グローバル化の波にうまく乗れなければ経済の先行きは厳しくなる。独自の文化を守りつつ飯のタネはちゃんと確保する「いいとこ取り」ができるかどうか。

   変化が起きるということは、今までの社会の秩序・枠組みが壊れ、新たな勝者・敗者が生まれるということだ。誰にでも人生で成功するチャンスがあることを、米国では「アメリカン・ドリーム」という。これは多種多様な人間が切磋琢磨する中で育まれた概念だ。

   これに近い日本語は「下剋上」だが、こちらはかなりネガティブなニュアンスをもつ。変化は前向きに進む人にとっては「夢」をもたらすが、過去の栄光にすがって生きていく人たちにとっては「悪夢」となろう。日本とヨーロッパが「悪夢」を見ないよう切に願いたい。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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