おたくのご主人、隠れて借金してませんか?

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「恐れ入ります。わたくしエヌモトと申しますが、○○さまは御在宅でしょうか?」
「え、どういったご用件ですか?」
「ええと、○○さまにご確認したいことがありまして。ご本人さま宛にお電話させていただきました」
「……はぁ?アンタ、どっからかけてきてんの!?」

   私は28歳のしがないOL。ある金融機関で「督促」の仕事をしています。要するにクレジットカードやキャッシングの支払いを延滞しているお客さまに、入金のお願いの電話をかけているのです。

社名明かせずストーカー扱いされることも

ご本人に知らせたい。ただその一心でお電話しているのに(イラスト:N本)
ご本人に知らせたい。ただその一心でお電話しているのに(イラスト:N本)

   この仕事をしていると、毎日いろいろな苦労があります。中でも難しいのは、契約者ご本人さまよりも、そのご家族との交渉だったりします。

「だから、アンタはどこの誰かって、聞いてるのよぉぉ――!!」

   受話器越しに伝わる相手の剣幕に、私は思わず「ひぃっ」と悲鳴をあげました。時間は夜の8時過ぎ、この時間ならサラリーマンの契約者も帰宅している可能性が高く、私は自宅の固定電話にターゲットを定めて督促の電話をかけていました。

   電話に出たのは、契約者の奥さまでした。あからさまに不信感がにじむ声色に、私は内心(まずい!まずい!)と焦りはじめていました。

   クレジットカードやキャッシングは、ご家族に内緒で利用されているケースが多くあります。契約を結ぶ際に「家族に内緒」「配偶者に内緒」といった項目があり、これらに該当する場合は、ご家族や配偶者にも会社名や契約内容を絶対に知られてはなりません。

「どこの会社からかけて来てるの? 言いなさい!」
「こ、個人的にお電話をしています……」

   会社名を名乗れないとなれば、個人で電話をかけていることにするしかありません。早々に「いらっしゃらなければ結構です」と電話を切ろうとした瞬間、受話器から鋭い声が突き刺さりました。

「さてはアンタ、主人のストーカーでしょ!ふざけんじゃないわよぉ!!」
(えええええ――!!)

延滞が続くと信用情報に傷がつく

   思わぬ非難を受け、私の全身から冷や汗が一気に噴き出ました。その後もさんざん罵倒されながら、

(このままでは要らぬ夫婦喧嘩の火種を生んでしまう!)

と、なんとかセールスを装い電話を切りました。

   このように督促をしていると、ご家族の存在が意外な障壁となることがあります。支払いが遅れている契約者さまは、自分が支払いを延滞していると知らない場合も多く、督促の電話をして支払いを延滞している事実をお知らせしなければなりません。

   なぜなら、延滞を知らないままでいると信用情報に傷がつき、カードやキャッシングが使えなくなってしまうからです。そこに立ちふさがるのが「ご家族」の壁。

「さては振り込み詐欺だろう? この詐欺師!」
「怪しいセールスなら、いらないって言ってるでしょ!」

   不審者扱いをされて、ご本人がそばにいるのに電話を取り次いでもらえないケースも多くあります。契約とはいえ会社名を名乗れないジレンマもありますが、ご家族が契約者を守ろうと取った行動が、結果としてご本人の信用を損ねてしまうことになるのは、なんだかやり切れない思いがします。

(家族に内緒で借金できるしくみが悪いのかなぁ。でも奥さまが信用して電話を取り次いでくれる方だったら、ご主人も内緒でカードを利用しなかったかもしれないし…)

   そんな気持ちを胸にしまい、私たちは今日も怒鳴られ覚悟で、ご契約者さまに電話をかけ続けます。お支払いの延滞を必ずご本人に知らせたい――、ただその一心で。

N本(えぬもと)

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債権回収OL・N本(えぬもと)
某金融機関で債権回収部門に所属する20代OL。コールセンターで支払延滞顧客への督促を担当している。入社半年で3億円の回収を達成して頭角を現し、10万件の顧客を担当する精鋭チームに最年少で配属された実績を持つ。他人に強く言えない気弱な性格を逆手にとり、独自の「交渉メソッド」を開発。300人のオペレーターを指導しながら、年間2000億円の債権回収に奮闘している。好きなものは、ビールとスイカ。ブログ「督促(トクソク)OLの回収4コマブログ」。(本コラムは当事者のプライバシー保護のため、一部事実と変えている点があります。)
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