先日発表された厚労省の調査結果によると、非正規雇用の割合が38.7%と過去最高を記録したそうだ(「就業形態の多様化に関する総合実態調査」より)。内訳をみると、派遣労働者が“派遣切り”によって大きく減少する一方で、契約社員やパートがそれを補う形で増えているのがよくわかる。
実は派遣切りの裏には、「3年経ったら直接雇用を申し出なければならない」というルールの存在があった。規制強化で正社員が増えるわけではないということがこれではっきりしたのだから、派遣法改正などというバカなことはもうやめるべきだろう。法律をいくらいじったところで、企業が負担できる人件費は変わらないのだ。
直接雇用のリスクが高すぎる日本
ただ、世の中にはなぜか、
「派遣会社は悪だから、とにかく派遣を禁止すべきだ」
という妙な考えの人がいて、未だに派遣法の改正云々を言い続けている。
本当に派遣会社は悪なのか? そもそも、企業はなぜ派遣会社を使うのだろうか? 良い機会なのでまとめておきたい。
実は、大手企業にとって、派遣労働者というのは決してコストが安いというわけではない。むしろ製造業の製造ライン等では、直接雇用する場合より時給で見れば割高になってしまうケースが多い。
にもかかわらず、なぜ企業は派遣会社を間に入れようとするのか。それは、直接雇用にともなうリスクを回避するためだ。
あまり知られてはいないことだが、契約社員やパートといった有期雇用契約であっても、何度か更新するうちに「期間の定めのない雇用契約」が暗黙のうちに成立していたとみなされ、後になって正社員への登用を求められるリスクがある。
そこで、募集からマネジメントの代行に加え、そういった直接雇用のリスクを一定の手数料で引き受けるというのが、派遣会社のビジネスモデルなのだ。
日本の人材派遣会社が人材紹介機能をもたず、ずっと派遣しっぱなしなのは、これが理由である(諸外国では一定期間後に直接雇用に切り替わるケースが多い)。
「金銭解雇ルール」で製造業は延命できる
逆に言えば、金銭解雇ルールを整備することで、少なくとも自力で募集から管理までこなせる大手企業については、派遣会社を使う必要はなくなる。中小企業についても、一定期間の派遣労働後に、直接雇用に切り替えるだろう。
つまり、派遣会社は人材紹介会社に近づくことになるだろう。結果、派遣労働者の手取りは増えるはずだ。
先進各国が中産階級の雇用確保に苦労する中、日本には雇用の受け皿たりえる製造業という職場が、比較的多く残っている。
産業構造の転換の結果としてそれらが失われるならともかく、“正規雇用”という名のもと、社会保険料をむしり取りたい厚労省の御都合だけで、それらを自ら捨てるのはあまりにも愚かだろう。
日本が雇用規制を強化して喜ぶのは、中国等の新興国だけである。
城 繁幸