華やかな業績をあげていた人が、転職後になかなか成果をあげられず、退職に追い込まれることは少なくありません。採用コストが回収できなかった会社側も、「こんなことならポテンシャル重視で未経験者を育てた方がよかった」と不満が残ります。
特に大手で優良なネットワークを築いていた人が、中堅、中小企業に転職して即成果を求められるときに起こりうることですが、こういうケースには共通する原因があり、これを避ければ期待どおり、いやそれ以上の成果を上げてもらうことは可能なのです。
普通の「知人営業」では限界が早い
いまから10年ほど前、金融業界にリストラの嵐が吹き荒れたことがありました。早期退職制度を使って、多くの仲間たちが他社に転職していきました。
外資系保険会社に転職したAさんに、転職後1年ほどして街でバッタリ出会いました。彼はすでに会社を辞め、新たな職を探しているところでした。「やっぱりきつかったですか」と聞くと、Aさんは事情を明かしてくれました。
「会社は銀行での手腕を買ってくれたように見えたけど、いざ入社が決まったら手のひらを返したように、『中途入社には、ウチの既存の取引先には訪問させない』『とにかく自前のネットワークですぐに新規契約を獲得してこい』って言い出してね。結局、僕の手持ちの『知人営業』を期待していたってわけ。それでしばらく親戚や友人、元同僚でなんとかしのいだけど、持ち玉が尽きてジ・エンドというわけ」
会社側も、それなりの条件で引きぬいたわけですから、甘い期待をしたのでしょうが、業界ごとに商品も営業のスタイルも違います。新しい商品向けのネットワークの再構築も、一朝一夕ではできません。
こんな条件ではいくら優秀な営業マンであっても、成果を上げ続けられる人は少ないでしょう。他の業界に転職する人は、手かせ足かせをつけられたまま過剰な責任を担わされることに警戒すべきです。
一方で、「知人営業」を手がかりに成功を続けている人も中にはいます。Aさんとは別の外資系保険会社に転職したBさんは、勤続6年目を迎えました。継続した好成績が認められ、営業部門の推進責任者を任されています。中途採用からの大抜擢です。
Aさんの事情を話し、実績を上げ続けた保険営業の極意を尋ねる私に対して、Bさんはいとも簡単にこう話してくれました。
「難しいことは、何もしていないよ。工夫があるとすれば『テコ営業』かな」
商品の売り込みだけで終わらせるな
Bさんによると、営業活動を「テコの原理」に例えたとき、自分を「力点」、知人を「作用点」としての売り先とだけ考えていると、いずれ力を使い果たしてしまうそうです。
しかし、知人から他の知人を紹介してもらい、二次紹介先、三次紹介先に営業することができれば、知人を「支点」として大きなレバレッジ(テコの力)を発揮することができるというのです。
「『知人営業』の際には、商品を売るだけじゃなくて、必ず誰か他の人を紹介してもらえないかお願いする。可能な限りたくさんね。共通の知り合いがいるというだけで、他の新規先とはぜんぜん違ってくる。親近感も持ってくれるし、話を聞いてくれる姿勢も前向き。だから成約の確率は格段に高くなる」
二次、三次の紹介先で仮に契約に至らなくても、ダメ元で「どなたかご案内させていただけそうな方はいらっしゃいませんか」と図々しく頼んでみる。うまくいくケースばかりではないが、意外な人がいいつながりを持っていて、予期せぬ大収穫ということもあるそうです。
「せっかくの機会でしょ。紹介をお願いもしないで『ありがとうございました。ではサヨナラ』なんて、そんなもったいない話はないよ」
彼が転職したときも、現場からは「また大手から人を採ったけど、いつまでいられるのか」と冷ややかに見られていたのだそうです。しかしいまでは、自分の方法を他の営業マンにも紹介し、ひとつの手法にまで確立したということでした。
というわけで営業マンが転職する際には、会社との思惑の違いを確認しつつ、営業の仕方についての共通認識をきちんと持っておくことと、前職のつながりを上手に活かした「知人営業」のテコを利かせることの2つがポイントになると思います。
※営業を中心としたお仕事の悩みについて、筆者がお答えします。
大関 暁夫