以前、消費税の増税がタブーでなくなったと書いたら、「消費税には逆進性があるのではないか」という指摘をいくつかもらった。生活必需品を購入する費用の割合が高い低所得者の方が、高所得者より税負担率が大きくなるというわけである。
しかし、実際には消費の多い人=富裕層ほど多く収めるので、消費税というのは万人に公平であり、かつ経済への影響も少ないというのが一般的な考えで、先進各国で20%前後に設定されているのはこれが理由だ(左派の皆さんご推奨の北欧諸国は25%前後)。この視点に加えて、どういう人にとって消費税のメリットがあるのかを少し考えてみたい。
「所得増税」は現役サラリーマンに負担集中
たとえば、知人に一人、まとまった額の遺産相続をしたので大手企業を辞めて40代で早期リタイヤした男がいる。彼は貰った資産を死ぬまでに全部使うつもりだそうで、当然ながら強固な反消費税主義者である。
仮に彼の資産が5億円で消費税率20%になったとすると、彼は1億円を納税することになるからだ。ちなみに彼の代替案は、所得税か相続税の率を上げることで、
「貧乏人が可哀そうだ。お金持ちから取れ」
というのが表向きのお題目だ(自分は全部使うから関係ない)。メディアで相続税100%とか極端な主張をしている識者には、実はこういうストックの金持ちが少なくない。
一方で「所得税を上げるのが公平だ」というロジックはどうだろうか。日本は少子高齢化が進み、現役世代の数は減る一方だ。少ない現役世代の所得税だけで負担することになってしまう。
さらに言えば「高額納税者」なるものは終身雇用の日本にはあまりいないし、いてもいろいろ調整可能な自営業者中心なので、所得税で賄おうとした場合は500~1000万くらいのがっちり補足可能なサラリーマンがメインで負担することになるだろう。
「中途半端に増税などすれば、今の体制が延命するだけだ。いっぺん破綻させてゼロにした方がいい」
という人も中にはいる。でも、日本の借金はほとんどが国内向けだ。つまり、チャラにして損をするのは結局日本人ということになる。その時にまとめてドカンと負担するよりも、今から少しでも上の世代にもご負担いただいた方が、トータルでみれば我々自身の負担は少なくて済むはずだ。
というわけで、本コラムの読者であろう「29歳の若手ビジネスマン」向けには、やはり消費税が一番おススメな次第である。
増税反対なら「社会保障カット」主張すべき
最後に付け加えておくと、小さな政府にしろ大きな政府にしろ(世代間で公平で、何よりも持続可能だという意味で)規律が保たれていることが必須だ。
税収以上の額を借金するという、明らかに誰が見ても持続不可能な現状は、単なる無責任な政府であって、これを正常な状態に手直ししましょうね、というのは大きな政府でも何でもない。
なので、あくまでも負担の少ない政府がいいという人は、カウンタープランとしては「社会保障のカット」を要求するといい。
「社会保障給付の9割を占める高齢者向け医療、年金支出をカットしろ」
これが、消費税引き上げに反対する人にとって、唯一身のある主張だろう。
城 繁幸