バブル崩壊、リーマンショックによる「失われた20年」で、毎月のお給料やボーナスが増えないだけでなく、大幅に減ってしまった人も少なくないはずだ。
しかしグローバルな視点で見ると、日本人の平均年収は減っているどころか、大幅に「増えている」という主張がある。本当にそんなことがありうるのだろうか。
ドル換算なら20年で2割も増えた
これは、「今、日本人の平均年収はめちゃめちゃ増えている」という記事で展開されている説。「Business Media 誠」に掲載されたものだ。
国税庁の統計によると、日本人の会社員の平均年収は、平成9(1997)年の467万円から一貫して下降傾向にある。平成21(2009)年には406万円となり、12年間で60万円以上も減ったことになる。
一方でドル円レートは、98年の130円以降ドル安傾向が続き、11年には70円台に突入。国際通貨のドルを基準とすれば、98年の平均年収はおよそ3万6000ドル、09年は4万3000ドルに相当する。
平均年収が400万円まで下がっても、1ドル75円なら5万3000ドルという空前の高水準となるわけだ。
もしも給与が2割から5割も増えているのなら、確かに「めちゃめちゃ増えている」といえるだろう。しかし一般的な生活実感としては、以前よりも裕福になったとは、とても言うことができない。
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子氏は、この試算はやや強引ではないかと首を傾げる。
「一般家庭の家計が厳しさを増しているのは、消費者物価指数が95年から1%程しか下がっていないのに、給与は1割以上も減っていることからも明らかです。ドルベースでの所得増で海外の株式を安く購入できるなどのメリットは考えられますが、日本国内で生活し、日々の消費のほとんどを円で行う多くの人にとって、恩恵は限定的でしょう」
失業率も95年からおよそ2%上がっており、就職をあきらめハローワークに行くのをやめた人を含めると、さらに悪化しているという見方もある。
「国税庁の統計は給与所得者のみをカウントしていますから、日本全体の世帯収入でいえば大変な落ち込みなはずです。なけなしの資産をドル預金にしていて、円高で大損した人からの相談も少なくありません」
海外旅行で買い物すれば恩恵受けられる
円高で輸出産業の業績は悪化し、生産拠点の海外流出も進んでいる。平均給与のドル換算に意味があるとすれば、「グローバル企業が日本人従業員を敬遠する根拠」として使われることだ。
「外資系企業では当然この手の試算をしているでしょう。実際、日本人の従業員を減らして、香港などアジアでの採用に力を入れる動きが急速に進んでおり、私自身も外資でリストラされてしまった経験があります」
一方で、日本に住みながら円高の恩恵を受けられる方法もあるという。
「輸入食材や海外ブランドを好んで買う人にとっては、円高は好都合ですね。円を外貨に替えて海外旅行に行き、現地でたくさんお買い物をする人の中には、『実質的な収入はそんなに減っていない』人がいるのかもしれません」
円建てで給料をもらいながら、海外で働いたり留学したりする人にとっても、円高は好都合だ。とはいえ、「年収がめちゃめちゃ増えてる」といえるのは、ごく一部の人に限られるだろう。一般人としては当面、日本の小売店に「円高還元セール」を要求するくらいしか恩恵を受ける道はなさそうだ。