飲食店のアルバイト 「身元確認」が厳しくなった理由

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「最近、アイドルの人が泊まったホテルのことをツイートした従業員、いたじゃないですか。ああいうのって、僕らは本当に他人事じゃないって思うんですよ」

   有名人もよく来る飲食店の共同経営者Aさんが言いました。この店でもアルバイトのような短時間だけ働く人を雇っていますが、誰でもいい、というわけではないのだとか。

「悪貨」のせいでルールも費用も増える

   いまは、似たような店で働いた経験があって、こちらが知っている人からの紹介がないと雇わないことにしているそうです。

「有名な人であれ誰であれ、僕らの店に来て楽しんで食事をしたり、話をしたりしてもらい、また来るよって言っていただきたいわけです。
でも、自分が一緒にいた人のことや話していたことがダダ漏れになる店になんて、たとえ食事が美味しいとかサービスがよくても、また行きたいと思うわけがないじゃない。お客さんの話に立ち入るどころか、聞き耳を立てることすら接客業としてのルール、倫理違反でしょう本来。それを一から教えなくちゃいけない人物なんて、とても雇ってられないですよ、忙しいし」

   当たり前ですが、勤務中は個人のケータイもスマホも持ち歩かせません。

   ただ、飲食店はアルバイトでも比較的少人数ですみますが、有名人が泊まるようなホテルとなると、どうしても大勢の人を雇わなければならず、その点は「どうしても監督の目をすり抜ける者が出てきてしまうし、教育も含めて大変だと思う」とAさん。

「当然、勤務中にケータイやスマホは持ってはいけない、ってなってるはずなんだけど。ポケットや腹に差したりして隠し持ってるんでしょう?これからは、勤務に入る前にはケータイやスマホを箱かなんかに預けなくちゃならないなんていう、余計なルールができかねない」

   そうなると、預かる店の方も余計な気遣いが一つ増えることに。

「預けてるうちに誰かにケータイのアドレス帳やメールを盗み見された、イタズラされた、壊された…。そういうトラブルを回避するよう、こっちもいろいろ考えなくちゃならない。そのために金庫を買うとかなると、それだけでも本来は不要な出費でしょう?もうね、迂闊なヤツが一人出てくるだけで、次々と本来の業務に直接関係ないムダなことをしなくちゃならなくなる」

   そこで、人物の信用を担保するために、誰でもよいということにはしていないのです。

ネットやケータイのせいなのか?

「僕も接客業ですから、面接したら、だいたいわかると思っていたんです。でもね、最初はそんな風には微塵も思わせないで、フタを開けたらとんでもないヤツでしたってことが、やっぱりあるんですよ。
似たような店にいたことがあって、こっちもよく知ってる同業者の紹介であれば、すでにテスト期間を終えたようなものだから、リスクが少ないんですよね。まあ、評判の悪いお客さんや従業員のことは、同業者の繋がりでそれこそ情報を共有していますから」

   それにしても、とAさん。人がやって欲しいと思っていることを先回りして提供するのがサービス業なのに、やって欲しくないと思っているプライバシーの暴露をサービス業の現場がやってしまう。

「ネットやケータイのせいだっていうのは、違うと思う。ケータイやスマホは、いまやほとんどの日本人が持ってるけど、みんながみんなツイッターで暴露してるわけじゃない。時代が変わったっていうのも納得がいかないし、何なんだろうって、この頃よく考えますよ」

井上トシユキ

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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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