嫌な顧客とは「取引をやめていい」会社がある

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   日経ビジネス2011.8.1号で、「元気が出る!すごい制度100」という特集が組まれている。8人いる役員のうち2人を2年に1度強制的に入れ替えるサイバーエージェントや、出張旅費の清算を遅らせると経理部門に罰金が支払われるディスコなど、ユニークな制度がいくつも紹介されている。

   中でも目を引くのが、「すごい営業」として紹介されている中里スプリング製作所(群馬・高崎市)。社員は、嫌いな顧客とは「取引をやめていい」というのだ。

減った売上げは「社長が取り返す」

「はずむ技術」を掲げる中里スプリング製作所のウェブサイト
「はずむ技術」を掲げる中里スプリング製作所のウェブサイト

   社会人になって最初に叩き込まれるのは、「顧客」の大切さ。「お客さまがこう言ったから」とは、上司の指示の次に重要なことだ。株式会社武蔵野の小山昇社長は、「社員の給料はお客様が払っている」と表現している。

   そのことによって、大企業のお得意様が下請の中小・零細企業の担当者に対して礼儀に欠ける言動をしても、「その程度は仕方がない」「我慢するのが当たり前」「仕事とはそういうもの」ということになりがちだ。

   しかし、中里良一社長のポリシーは、まったく違う。「日本一楽しい会社」を目指す社長は、

「嫌々やる仕事に意欲を燃やせる人はいない」

として、嫌いな顧客とは取引をやめてもいい、という考えの持ち主なのだそうだ。

   本当にそんなことが可能なのだろうか。中里スプリング製作所に電話をしたところ、社長自らが電話に出て回答してくれた。中里社長によると、同社では1年に1回から数回、「一番頑張った社員」を表彰し、ある権利を与えている。

   1つは、社内の材料を使って、自分の好きなものを何でも作ってよい権利。もう1つが、自分がどうしても好きになれない会社との取引をやめる権利だ。「一番頑張った社員」は、このいずれかを選ぶことができる。

   実際、この権利を行使して取引を止めた会社は48社。これによって減った売上げをカバーするため、「3カ月以内に10件の新規顧客開拓」が必要になるという。そんな厳しいノルマを課せられるくらいなら、誰も権利を行使しないのではと聞くと、こんな答えが返ってきた。

「いや、10件の新規顧客を開拓するのは、社員じゃなくて社長の私です。減った分は社員に頑張れというのではなく、私が取り返すんです」

社員採用の基準は「私が好きか嫌いか」

   中里良一社長は、中里スプリング製作所の2代目社長。商社勤務を経て家業を継ぎ、「理想の町工場づくり」を目指している。微細な加工技術が求められる精密バネを製造し、「次郎長28人衆」にならって社員数は最大28人までと決めている。

   朝日新聞デジタルで連載中のコラムで、「取引をやめる権利」を導入した理由を説明している。東京の商社で営業マンをしていたとき、成績が上がると臨時ボーナスをもらうことがあった。もらったときは嬉しいが、次の日にあまり好きじゃないお客のところに行くと、気持ちが一気にブルーになってしまう。

「嫌いなお客さんに頭をさげて品物を売るのも、営業の仕事かもしれません。金銭的には豊かになるかもしれません。でも、自分を必要としてくれるお客さんに全力投球すると、精神的な満足感が違うんです」(11年7月25日付コラムより)

   労務行政研究所が運営する「ジンジュール」の連続インタビューでは、「皆が損得ばかり考え、仕事を嫌いになっていることが現代社会の問題点」と言い切る。

   なお、「一番頑張った社員」の表彰基準は「業績ではなく、私の独断と偏見」。社員採用の基準も「私が好きか嫌いか」、課長以上の管理職は「私の好き嫌いで選ぶ」。ワンマン社長ではあるが、社員の好き嫌いも尊重してくれる――。大手にはない、中小企業ならではの魅力を感じる経営だ。

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