なぜ「インド人経営者」は世界で活躍できるのか

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   新興国の雄として、中国と並んで急成長を遂げているインド。ITやソフトウェアの分野の強さがよく知られているが、「輸出商品」として最近注目されているのが「経営者」だ。世界で活躍するインド人社長に、こういう人たちがいる。

・ヴィクラム・パンディット:シティグループのCEO(最高経営責任者)
・インドラ・ヌーイ:ペプシコのCEO(フォーチュン誌「米ビジネス界最強の女性」で2006年から2010年まで連続1位選出)
・デブン・シャーマ:格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ社の社長
・アンシュ・ジャイン:ドイツ銀行の次期共同CEOに決定
・アジェイ・バンガ:マスターカード社のCEO
・サンジェイ・ジャ:モトローラ・モビリティ社のCEO

   そうそうたる企業のトップが並んでいることがわかるだろう。

年間平均所得10万円。事業のしやすさ134位

   彼らは欧米に留学した人ばかりかというと、そうでもない。マスターカード社長のアジェイ・バンガはインド工科大学の卒業で、最初の12年間はネッスルのインド子会社に勤めていた。ちなみにシーク教徒の彼は常にターバンを頭に巻いているが、それが出世の妨げにはなったりはしていないようだ。

   何故インド人がこんなに多く、欧米の大企業のトップになっているのだろうか?以下、米タイム誌2011年8月1日号の記事「India's Leading Export: CEOs」を参考に考えてみた。


(1) 英語ができる

   多国籍企業のトップになるためには、英語ができなければならない。英語ができれば英語圏の企業のみならず、ドイツや日本の大企業(ソニーなど)のトップにもなれる。

(2) 多民族・多宗教・多言語の国

   12億人が住むインド亜大陸は、それ自体で一つの世界を形成していると言ってよい。さまざまな人種と言語と宗教が入り乱れる国での生活体験は、そのまま多国籍企業の経営に通じるところがあるであろう。

(3) 貧しい発展途上国

   平均的インド人は、きわめて貧しい。インドの一人当たり年間平均所得は約10万円に過ぎない(中国は34万円、日本は333万円)。電気等のインフラも極めて貧弱で、これがインド国内の産業の発展へのネックになっている。有能なインド人が海外に向かうのも当然だ。

(4) 政治家や官僚が腐敗していて市場が機能していない

   インドでのビジネスのやりにくさには定評がある。世界銀行の「ビジネスのしやすさランキング」では世界134位だ。中国でのビジネスも色々と困難だが(同79位)、インド政府から許認可をもらう苦労を考えたら、中国の役人との交渉など赤子をひねるようなものと言われる。そんな環境で訓練されていけば、世界のどこに行ってもやっていけるタフさが身につくということだろう。

多様な文化への対応が苦手な日本人

   ひるがえって、日本人はどうだろうか? 日本人が日本企業のトップの大半を占めていることは当然だが、欧米の企業のトップになるような人材は、ほぼ皆無と言ってよい。

   上記のインド人の特徴をちょうど逆にしたのが、日本人だとは言えないだろうか。

   英語が下手で、ほぼ単一民族・単一言語の国民なので多様な文化に対応するのが苦手。豊かな先進国なので、海外に飛び出すインセンティブが少ない。国内のビジネスは比較的やりやすい。ビジネスのしやすさランキングは世界18位だ。

   私も長年いろんな国籍の人と仕事をしてきたが、日本人、韓国人、中国人も数学などの知的能力では、インド人に決して負けないと思う。しかし、英語力や議論・交渉の力あるいは論理性が弱いので、欧米人を従えるところまではなかなか行かない。

   一方、インド人エリートは数学の力に加えて、英語も母国語並みだし議論も強い。確かに最強のリーダーになる素質があるように思える。

   「日本人は日本でやっていればよい」という時代は終わった。世界第2位の経済大国の地位は失われ、国際社会での存在感は薄くなり、発言力も低下していっている。

   世界の中枢にある国際的組織の幹部に日本人がどんどん入っていくことが、日本の国益につながる。アジア人でも力があれば欧米企業のトップになれることを、インド人は示してくれた。若い日本人にはぜひ外に出てチャレンジしてもらいたい。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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