「このあいだ、仕事のことで妹に説教されちゃいましたよ!」
東京のIT企業で働くAさん(28歳)は、そう苦笑いする。東海地方の実家に久しぶり帰省した際、家族の前で仕事の不満を漏らした。すると4つ年下の妹から「それはお兄ちゃんのやり方がヘタなんじゃないの?」と諭されたという。
「他に居場所がないから、やらされる」
Aさんの仕事は、プログラマー。月の残業は60時間程度だが、そのうち残業代が払われているのは20時間。あとはいわゆる「サービス残業」だ。
職場はオトコばかりで出会いもなく、薄給がこの先増える見込みもない。実家でリラックスして、つい「もう辞めようかな、あの会社」とグチを言ってしまった。
「それは大変だねえ、と言ってもらえば話は終わりだったんですけど、妹が食いついてきて言い争いになって」
24歳の妹さんが言うには、会社を辞めるのではなく、逆にアルバイトを増やしたらいいという。つまり「ダブルワーク」の勧めだ。
彼女は、昼間は工場で働き、夜はスナックで働いている。実家から30分のところに一人暮らし。工場の収入だけでは生活費が足りず、水商売も欠かせない。友人には同じようにしている人も少なくないのだそうだ。
「要するに、お兄ちゃんは会社以外に居場所がないから、サビ残やらされるんだと。妹は急な残業が入っても『すみません、今日はお店があるので』と言い残して帰るんだそうです」
「次の仕事がある」と毅然と言えば、他人は止めにくい。彼女はお店のない日は残業するが、工場の都合ばかり押し付けられたら「さっさと辞めて違う工場に行く」判断もするという。半導体でも食品でも、条件次第で選んで働けばいい。
収入も出会いも増えるのか?
夜のお店もそうだ。「ママの病気とかを理由に、お店が閉まることはよくある。そしたら、別のお店で働けばいい」。どこのお店でも、やることはだいたい同じ。人間関係さえよければすぐに慣れる。
しかし、いまでもヘトヘトなのに、どこにアルバイトをする力など残っているというのか。Aさんは頭に来て、お前は何も分かっていないと反論したという。
「そしたら妹は、バイトすれば、本業をサッサと終わらせようとするし、会社にダラダラ残ることもなくなるんだ、って言うんですよ。そのうえ収入も、女の子との出会いも間違いなく増えて、かえって疲れないんだって」
副業は会社が禁止しているから、と言っても「そんなのバレなきゃ分からない」「本当はヤル気がないだけ」などと散々言われ、言葉に詰まってしまった。
確かに残業時間が減れば、サビ残部分は圧縮される。上司の口癖は「嫌なら辞めろ」だし、この給料で四六時中縛り付けようなんて都合よすぎる。会社がつぶれる可能性だってある。
東京に戻ってきてから、何かとバイトに結び付けて考えてしまう自分をおかしく思っているそうだ。
「妹の言ってることには、正しい部分もある気がする。少なくとも、いまの仕事は辞めない。いいバイト見つけたら、妹に報告しますよ」