東京大学が秋入学を検討するというニュースが話題となっている(2011年7月1日付日本経済新聞)。世界標準の秋入学とすることで、大学は優秀な留学生を獲得する機会が増えるし、東大の学生も海外に留学しやすくなるだろう。
そして、小学校からシームレスにレールの上を歩んできた人生に、半年とはいえ、初めて自分の足で歩く期間を作ることの意義は大きい。ひょっとすると、入口から労働市場を流動化させるきっかけになるかもしれない。
「日本の組織」と心中する必要はない
さて、今回の報道だが、「東大内の一部の動きを日経が大げさにクローズアップしただけ」という声もある。たしかに、東大は決して一枚岩でも縦社会でもないので、これから紆余曲折はあると思う。
ただ、その“一部の人たち”が目指すものが何なのか、東大じゃない人たちも知っておいて損はない。実は、そこには単に入学時期だけの話ではなく、21世紀を勝ち残れる人と組織のビジョンがはっきりと見て取れるからだ。
一言でいうなら、それはグローバル化、多様化、そして流動化である。濱田純一総長が任期中に達成しようとする中期ビジョン「行動シナリオ FOREST2015」には、こんな項目が掲げられている。
「タフな東大生の育成」
・国際的なコミュニケーション能力の育成、交流機会の充実
・多様で優秀な学生を受け入れ、多元的に評価する教育体制の整備
・将来的な入学時期の検討
「教員の教育力の向上、活力の維持」
・女性教員比率の向上
・人材流動性の向上のため特例教授ポストの設置、若手研究者の年俸制助教採用の促進
「職員制度」
・年功序列の昇進制度を見直し、有能な若手職員の抜擢を目指す
具体的に濱田総長が思い描くキャンパス像は、「初夢」(PDF)というコラムを読むとよく分かる。
恐らく、日本の組織や大学が変わるまでには、まだまだ長い時間がかかると思われる。そして、それまで日本の凋落は止まらないはずだ。
ただ、個人がそれに付き合って心中する必要はないわけで、できる範囲でいいからキャリアデザインと自己投資を進めるべきだ。その際、東大の描く「タフな東大生を育成するためのビジョン」は、個人がタフになる上でも大いに参考になるだろう。
城 繁幸