実家の母親から連絡がありました。スマートフォンを買おうと思うのだが、どの機種が良いのか、というのです。70歳になる母親は、これまでケータイも持っていませんでした。
今年の正月も、「家の電話とファクス、それにパソコンメールだけでだいたい大丈夫なのよ。わたし、集合時間に遅れたこととかないし」などと言っていたくらいだったのです。それがまた、なぜスマートフォンを買おうという気になったのか?
団塊世代の常識になるか
「わたしは遅れなくても、他の人が遅れる時に連絡ができないと不安だし、気が咎めるから持ってくれっていうのね。あと、旅行で初めて行く土地の地図を、いつでもすぐに手元で見たいのよ」
連絡用はともかく、スマートフォンで見る地図は、老人にとって必ずしも見やすいとは言えない気もします。
それでも母親は、海外に行った時、日本語で検索して、日本語で地図を表示させたい、だから多少大まかでも構わないのだとか。
「年金暮らしで孫がいないと、楽しみは海外旅行ぐらい。この間、一緒に行った旅行仲間は全員スマートフォンを持ってて、空港から目的地の位置関係とか情報をササッと検索して、みんなで教えあったりしてて、これは買わなきゃと思ったのね」
内蔵カメラで写真を撮影し、日本の家族や友人にメールを送ったり、画像管理ツールで、すぐにアルバムのように整理したりするのも、羨ましく思ったようです。
それだけ周囲の人たちが使っているのなら、機種選びは私に訊くより、同年代で同じ趣味を持っている仲間に、使い心地を教えてもらったほうがリアリティがあって良いのではないか、と答えておきました。
「それもそうね。遅れてる感じがあって、ちょっと気恥ずかしい気持ちがあったけど、それが一番良いわよね」
いやいや、70代のなかでは、その旅行仲間の人たちのほうが、むしろ進んでいるのであって…。
首からぶら下げたスマートフォンを思い思いにタップするお婆ちゃんの集団が、海外の観光地を練り歩く。いまはまだ珍しくても、あと5年もすれば、当り前の光景になるのでしょうか。
井上トシユキ