先日、喫茶店で涼んでいると、2人の客が入ってきました。ひとりは杖をついた老人で、もうひとりは少し歳の若い60代と思しき男性です。
私の真後ろの席に着くと、2人はケータイの話を始めました。
「ワシが使うてる『らくらくホン』にしたらエエんとちゃうか。こうしてな、使い方もメールも音声で読み上げよるから、わかりにくい説明書きを読まんでもエエんや」
65歳定年退職者が80歳に
ひとりがそう言うと、機能説明を読み上げる操作をしたようです。電子的な女性の音声が店内に響き渡りました。
「ほうほう、これやったら良さそうやな。これでもゲームとかできるんか?」
「できるやろ。でも、最初にゲームデータを読み込むときとか、ランキングを見たりするときにはパケット代がかかるからな、定額制のパケット料金にしておくほうがエエぞ」
「パケット代て、なんや?」
「それはな…」
大きな声で、ずいぶん熱心に話し込んでいます。少しウルサく感じたので、後ろを振り返って驚きました。
説明をしていたのが杖をついていた老人で、質問をして説明を聞いていたのが60代と思しき男性だったのです。
見た目とイメージだけで、年かさの老人が聞いている方だと思い込んでいました。
その後も細かな質問と説明が15分ほど続き、老人はスマートフォンとケータイの違いについてもよどみなく説明し、聞いていた男性も納得がいった様子。
そして「ほな、買いに行こか」となり、連れ立って喫茶店を出ていきました。
出て行く途中で60代と思しき男性が老人に、どうしてそんなに詳しくなったのか訊ねていました。
「ケータイはもう15年ぐらい使うてるからな。わからんことがあると、近所のショップへ行ってわかるまで聞いてたんや」
杖をついてゆっくり歩きつつ、老人が答えています。
15年前といえば、1994年に携帯電話がレンタルから買い取りになり、96年には新規加入料が廃止、97年にはショートメールが始まったころでしょうか。99年にカメラ付き携帯電話が登場、iモードのサービスが始まった後の急成長はご存じの通りです。
65歳で会社を定年で退職し、時間がたっぷりある中でケータイを始めた人が、いまや80歳になろうとしているわけです。
ネットバブルの頃、さかんに言われていた「デジタル・ディバイド」は、10年経ってだいぶ解消されているといえるでしょうか。
井上トシユキ