この夏の節電の一環で、各社でオフィス稼動時間の短縮が検討されている。半日勤務や週休3日制などにあわせて、オフィス以外での執務を許可する「在宅勤務」を導入する企業も増えているようだ。
ユニークなところでは、ファイザー製薬が東京・渋谷の本社ビルの全11フロアのうち、毎日1フロアを順番に閉鎖して、当該社員を在宅勤務に切り替えるという。
上司の「疑心暗鬼」があるのも事実
都内広告代理店で企画営業を担当する29歳男性は、7月から9月までの間、会社が週1日の在宅勤務を導入すると聞き、とても喜んでいる。
詳しい勤務ルールは未定だが、上司にその日の活動と成果を報告すれば、いつどこで仕事をしようとも個人の自由となるのではと期待する。
「企画って机にかじりついていて出てくるものじゃないのに、なぜみんな毎日決まった時間にオフィスにいなきゃならないのか。ずっと疑問で不満でした。在宅勤務になったらノートパソコン持って、カフェで仕事する時間が増えると思う」
もともと「あらゆる仕事は労働時間ではなく、アウトプットがすべて」と考えており、「自分の気に入る環境で仕事をすれば、仕事もはかどり、短い時間で質、量ともいいものが仕上げられるはず」という。
一方、在宅勤務こそ労働者まかせの成果主義ではうまくいかない、という見方もある。在宅勤務のあり方を長年研究し、実践してきたテレワークマネジメント代表の田澤由利氏は、こう指摘する。
「日本で在宅勤務が普及しないのは、部下が目の前にいないと『実はサボっているのでは』と上司が疑心暗鬼になるため。みんなが納得できる在宅勤務には、実際に働いている時間を管理するしくみも必要です」
成果主義なら労働時間はかえって延びる?
田澤氏が経営するウェブ制作などを行う会社では、パソコンの在席管理システムで労働時間を管理している。勤務者は「着席」「離席」ボタンを押して執務状況を申告。労働時間中は部下のパソコン画面がランダムに記録され、上司はいつでも確認できる。
「上司にパソコンを見られるなんて、と思うでしょうが、常に監視しているわけではなく、いつでも確認できる状態にあることで緊張感が生まれるのです。それに、アウトプットだけで評価しようと思うと、かえって労働時間が延びがちです。納得するものをあげるために睡眠時間を削ったり、オンとオフの切り替えができなくなることの方が、在宅勤務ではより大きな問題になるのです」
労働時間を管理するといっても、9時から5時まで家のパソコンの前にいなければならないわけではない。たとえば1日8時間勤務の人は、早朝2時間、昼間4時間、夜に2時間といった細切れの働き方も可能になる。
その合間に、幼稚園の送迎や家事などをこなすことができ、これまで育児や介護などで通勤が難しかった人でも働けるようになる。「子どもが起きたので仕事を中断」といった細かい集計も可能だ。
また、労働時間をきちんと把握することで、「同じアウトプットをより短時間で上げられる人を見分けることができ、評価に反映させることができる」効果もあるという。
ただし管理の仕方は、仕事の内容によって異なる部分もあるはずだ。就業時間をあえて統一したり、コアタイムを設けた方が能率的な場合もある。自社に適した在宅勤務の方法を見出すには、ある程度の試行錯誤が必要となるだろう。