米MITが大きな成果を上げている3つの理由

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   英ガーディアン紙2011年5月18日付に、興味深い記事が掲載されている。創立150周年を迎える米国の名門大学マサチューセッツ工科大学(MIT)の実態に切り込んだ「MIT因子(The MIT factor):異端の天才による150年の歴史を祝す」という記事だ。

   現存するMITの卒業生を調査したところ、「彼らは2万5800もの会社を設立し、300万人の雇用を生み出していた」ことが分かったという。これには、シリコンバレーの雇用の約4分の1を含む。「もしMITが国家だとすると、世界で11番目のGDPを有することになる」

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ノーベル賞77人はハーバードを上回る

   1861年の設立時から、MITは同じボストン市内のハーバード大学とは対照的な教育方針を持っていた。チャールズ川の上流にキャンパスを置くハーバードは、英国のオックスフォードやケンブリッジをモデルに上流階級用の古典教育にこだわり、ラテン語やギリシャ語に力を入れていた。

   これに対してMITは、研究と実践的な実験による学習というドイツ的なシステムを採用した。「知識は重要だが、有用でなければならない」という考え方がMITの伝統なのだ。同大学のエド・ロバート教授(技術革新・起業)は言う。

「もし君が素晴らしいアイデアを思いついたら、それはグッドだ。研究でノーベル賞を取ったら立派だね。でも、もしそのアイデアを応用し、世界を変革するようなものを作り出したら、その時にこそMITで称賛を浴びることになる」

   とはいえ、MITの卒業生や1年以上在籍した研究者の77人が、ノーベル賞を獲得している。これはハーバードの74人を上回る数字だ(Wikipediaによる)。

   注目すべきは、MITは米国の主要大学としては非常に小さい規模の大学であること。学生数は約1万人、教員数は約1000人に過ぎない。日本の東大や早慶に比べてもだいぶ小さく、東京工業大学と同じくらいだ。それでいてこの結果は、あっぱれと言うべきだろう。

   そんなMITの強さの秘密は、どこにあるのか? 記事を基に、3つのポイントを挙げておきたい。

   1つめは、国籍や人種などがバラバラの人間が集い、切磋琢磨していることだ。MITのスタッフの約40%が米国以外の生まれで、「世界中から有能な人材を引き寄せる磁石」(ホックフィールド学長)となっている。米国人だけ、あるいは日本人だけの集団では作れない刺激的環境がそこにはある。

「自由な精神を尊ぶ風土」に日米の違い

   2つめは、いろんな分野の専門家が互いに交流し、協同で作業していること。今は専門が細分化しているため、研究者はタコツボに入り込むように自分の世界に閉じこもる傾向にある。それが必要な場面ももちろんあるが、一見何の関係もなさそうな分野の専門家たちが集うことで、思いもかけぬ成果が生まれることも多いという。

   3つめは、すぐに役には立ちそうにないことでも取り組むことが許される、財政的・精神的余裕を持っていること。「知識は有用でなければならない」としても、真に画期的なアイデアは実用化するまでに長い期間が必要になる場合が多い。MITは官民の資金をうまく活用して、必要な金と労力を使える環境を構築した。

   このほか、科学技術系専攻が全体の85%を占めるMITでは、その多くはオタクの男子学生――と想像しがちであるが、実は学生の男女比はほぼ半々だという。現学長のスーザン・ホックフィールドも女性である。

   米国の大学を手放しで礼賛するつもりはない。こと理系に関しては、日本の大学だって捨てたものではないと思う。東工大や東大などの大学の研究者は、やる気や能力でMITに引けをとることは決してないと信じる。

   しかし、人的多様性、自由な精神を尊ぶ風土、さらには設備や資金といった要素が研究結果の差になっているとすれば、残念なことだ。我々は、日本の大学教育についてもう一度考え直してみるべきだろう。教育こそが次の世代にしてあげられる、最高の贈り物なのだから。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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