政府の年金制度改革案が公開され、「最低保障年金」の新設が話題となっている。2011年5月15日付け朝日新聞によれば、年収600万円までが支給対象となるそうだ。
僕は新制度の方向性を基本的に肯定的に評価しているが、若年層にとって重要なテーマにもかかわらず意外と誤解も多いようなので、簡単にフォローしておきたい。以下、超入門編である。
未納を許さないシステム導入で公平感高まる
まずは、(1)「年収600万円以上は年金がもらえないの?」という疑問について。新制度では、将来的に国民年金、厚生年金を一元化し、各自が報酬に比例した保険料を納めることが予定されている。
たとえば、平均年収600万円のA氏、300万円のB氏がいたとする。年収の5割が支給されるとすると、彼らが受け取る年金の額は、それぞれ300万円、150万円となる。
ただ、B氏の老後は150万円では少々きつい。そこで少し加算して、たとえば200万円ほど支給しますよ、という上乗せ部分(この場合は50万円)が「最低保障年金」である。
だから年収600万円以上の人も、そういった上乗せはされないけれども、報酬比例部分の年金は問題なく支給されるのである。したがって、この疑問は誤解である。
次に、(2)「未納者も保障されるのなら、真面目に年金を払っている人は損なの?」という疑問について。新制度では納税者番号のように、確実に所得を把握できる制度も合わせて導入し、未納を許さないシステムにするので、むしろ不公平感は薄まる。
たとえば、余裕がないので保険料を納めていない平均年収200万円のC氏がいたとする。このままいけば、彼は恐らく老後は生活保護に頼らざるを得ず、そのコストはA氏もB氏も負担するはめになる。
新制度が早期に実現すれば、C氏は自分の保険料をしっかり納め、老後は最低保障年金を上乗せして受け取れることになるから、A、B両氏も納得だろう。したがって、この疑問も誤解である。
若者にとってよい制度改革になる可能性も
また、(3)「若者にとって、よい制度改革なの?」という疑問もよく聞かれる。積立方式に移行するのか、財源をどうするか等、まだまだ不明な点は多いものの、基本的に若年層にとっては前進と言ってよい内容だろう。特に、現状で負担の大きいサラリーマンにとっては公平さが高まるはずだ。
最後に、今後の見どころを1点ほど。従来、国民年金しか加入していない人(第1号被保険者)は、月1万5千円ほどの保険料を納めるだけで良かった。これが年収に比例して15%前後に跳ね上がるわけだから、人によっては数倍に保険料がアップすることになる。
「サラリーマンは事業主に半分負担してもらえるから不公平だ」
という議論が、きっと自営業者などから上がるだろう。しかし、以前も書いたように、事業主負担とは名ばかりで、結局は本人負担のことなので、この文句は筋違いだ。サラリーマンの天引き分の半分に「事業主負担」という別名が付けられていただけの話にすぎない。
でも、長いこと「労使折半だから、サラリーマンもお得なんですよ~」と言ってサラリーマンから搾取し続けてきた厚労省としては、いきなり「事業主負担なんてあるわけないじゃん」とは言えないだろう。というわけで、彼らがどういう言い訳を考えてくるか、みんなで注目しておこう。
城 繁幸