将来に対する不安からか、「人脈は将来の自分への投資である」という認識が浸透し、最近は若い人たちにも人脈づくりに熱心な人が多く見られます。インターネットのソーシャルメディアの普及が、そういう傾向に拍車をかけているところもあるようです。
しかし私は、そんな若い人たちに「それほど焦る必要はない」ということを伝えたいと思います。若い時期は将来への投資よりも、まずは自分の仕事の基盤を作ることが大事。確かな実績を上げる前に人脈づくりに精を出すのは、非常に効率が悪いのです。
目の前の仕事に没頭し、限界が見えたら考える
人脈というと、単に営業マンにとっての「売り先」であったり、逆に仕事と無関係の「有名人の知り合い」のことを思い浮かべる人もいるようです。しかし私が確認してもらいたいと考える「人脈」は、前回も書いたとおり「自分を高めてくれたり、自分を広げてくれる相手」としての存在です。
お互いにとって何らかのメリットがないと、人間関係というのは続きにくいものです。したがって、仕事の基盤づくりが確立されていない、一人前になっていない若い人たちに、本来の「人脈づくり」をする余裕がないのは、ある意味当然だと思います。
結果が求められる若い時期には、利害関係を中心にして人に会うのは仕方がない。むしろ積極的に活用すべきです。ただし、そうやって仕事を進めていき、順調に一人前の道をしばらく進み続けると、やがて壁に当たる時期がやってきます。
単純に利害で結ばれた関係を消費し尽くして、新たな供給が追いつかないということもあるでしょう。もっと根本的な意味で、「現在のやり方を続けていても、これ以上の成果を出せない」ということに気づいたり、モチベーションが上がらなくなったりすることもある。
自分の中で、枯渇感や閉塞感を覚えるとき――。本来の人脈が欲しくなるのは、このような時期ではないでしょうか。いまの延長線上では限界が見えてきたときに、自分がこれまで経験していなかった世界を追体験させてもらい、自分を高めたり広げたりすること、そういう人脈もあるのです。
人脈を得て新しい芽が芽吹き、一定のところまで育つと、次はそれを収穫する作業が待っています。その時期がやってきたときには、再び結果を出すことに集中する。社会人生活は、そんな繰り返しによって幅を広げ、深みを出していくのではないでしょうか。
いざというときのための「アナログツール」
デジタルツールを駆使する若い人たちに、もうひとつの視点を提案したいと思います。それはアナログツールの使い方です。ソーシャルメディアによって、一対多のコミュニケーションがしやすくなり、人脈のメンテナンスもしやすくなりました。
一方で、メールでの連絡が当たり前になり、いまでは珍しくなった「直筆の手紙を書くこと」の「わざわざ感」を、逆に利用することもできるようになりました。目上の方へのお願いやお礼の際に、使ってみてはいかがでしょう。
ただし、堅苦しさを嫌うITベンチャーの社長などには不評かもしれませんので、相手を選ぶことになるかもしれません。
また、訪問時に菓子折りを持参したり、お土産を持って帰っていただくようなことも、場合によって相手にインパクトを感じてもらえます。
会社同士の付き合いの場合には、経費節減やコンプライアンスといった要請から、贈り物をする機会が減っていると思います。しかし、個人の間柄でする限りは個人の自由ですし、いまでは珍しくなったからこその効果があるものです。
決して高価なものでなくてもよいので、相手の嗜好を覚えていたということと、「あなたのために選んだ」ということを伝えること自体が重要です。
特に、相手から一方的に教えを乞うような関係の場合、このような形で関係を維持しておくと、何か困ったときに「すみません、ご相談ごとがあるのですが、お時間をいただけないでしょうか」とお願いしやすくなるものです。
高城幸司
*2011年2月、『自分を刺激し、成長させる 人脈地図の作り方』が日本能率協会マネジメントセンターより発行されました。