この春入社したばかりの新入社員にとって、5月はまだまだ学生気分が抜けない時期。社会人生活のプレッシャーから、休日につい羽目を外してしまう人もいるのでは。
ある会社では入社早々、連休中に遊びに行った先で事故を起こし、長期間の休養を余儀なくされてしまった新人がいるという。
復職まで2か月、後遺症はなさそうだが…
――金融業の営業部長です。5月のゴールデンウィーク中に、当部門に配属された新人A君から電話がありました。
事故でケガをしており、担ぎ込まれた信州の病院からの連絡でした。連休中に友人と趣味のツーリングに出かけ、バイクで転んでしまったということでした。
不幸中の幸いは、自損事故で終わったこと。ただしバイクは大破、肋骨と両足の大腿骨を骨折しており、退院するまでに1か月、職場復帰には更に1か月ほど掛かりそうです。
見舞いに行ったところ、整復手術は成功し、日常生活に支障の出る後遺症はなさそうだという答え。しかしA君の表情は暗く、
「まさか、いきなりクビにならないですよね…」と不安を隠せない様子でした。
社に戻って人事と話し合ったところ、「通常の社員であれば傷病休職を適用するところだけど、試用期間中はどうでしょうか」「他の新人たちは社内研修に一生懸命取り組んでいます。追いつくのは難しいんじゃないですかね」と冷ややかな答え。
要するに、私がダメと言ったら厳しい措置もありうるといった口調です。A君からは入院費もかさむので「入院中の給料はどうなるのでしょうか」とも聞かれていますが、ここは解雇もやむをえないでしょうか――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
試用期間中は休職を適用しない場合が多い
今回のようなケガの場合には、全治期間の見通しがある程度立ちますし、復職後も通常勤務ができそうですので、解雇をすれば争いになるリスクは高いと思います。解雇はすべきでないでしょう。とはいえ、入社早々、会社を長期にわたって休むのですから、給料をそのまま支払うというのは恵まれすぎている気がします。ノーワークノーペイの原則により、入院中の給料は支払う必要がないと思います。要件に該当すれば傷病手当金が支給されます。なお、試用期間とはいえ雇用関係にあるので、社会保険料の徴収が必要です。
一般社員と同じような休職制度を適用させるかどうかは、会社の判断によりますが、試用期間中は適用しない場合が多いでしょう。そもそも休職制度に関する法律上の規定はなく、事業主が独自に定めるものです。あらかじめ就業規則に「試用期間中の従業員には休職に関する規定は適用しない」と念のため定めておくのも手だと思います。
臨床心理士・尾崎健一の視点
場合によって本採用を見送るケースもありうる
今回のようなケガであれば復帰時期が明確なので、試用期間中であっても正社員と同じ休職扱いとする会社もあるでしょう。復職後、同期入社についていけそうなら同じ待遇でいいのですが、大きく出遅れてしまったら待遇に差をつけることも検討しなければなりません。差のつけ方は、賞与の査定や正社員の任用延期といった方法が考えられます。社内研修用のテキストを病院に送るなど会社に負担がかからない範囲で、復職支援をしてあげてもよいのでは。
なお、仕事に支障をきたす重い後遺症があるケガであったり、全治の見通しが立たない内科疾患やメンタルヘルス不調の場合には、30日前に予告して解雇したり、試用期間満了をもって本採用を見送る場合もあります。病気がちであることを隠して入社時に「健康状態は良好」と申告していた場合にも、厳しい措置が取られることがあります。一方、入社後短期間でも業務起因性が疑われる疾患にかかった場合には、直ちに解雇することができません。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。