「天下り」は永遠に不滅です

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   原発事故の影響もあってか、今になって電力会社と霞が関の不透明な関係がクローズアップされている。経産省の発表によれば、過去50年で68人もの経産官僚が全国の電力系会社に天下っているそうだ。

   両者の癒着が安全管理に何らかの影響を及ぼしたかどうか、現時点ではまだ何とも言えないが、国民の間に天下り規制を求める声が高まるのは間違いないだろう。

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「流動的な労働市場政策」セットにできるか

   ただ、夢を壊すようで悪いが、この国から天下りがなくなることはないだろう。というのも、天下りは終身雇用と表裏一体のものなので、終身雇用にメスを入れない限り、なくすことはできないからだ。

   今のところ国民の多数派はその気がないわけで、だから天下りは今後も安泰だろう…。なんて話はいつもしているので、たまにはOBの話でも引用しておこう。元大蔵官僚の榊原英資氏の言葉である。

――「天下り根絶」は、また、実現不可能かつ、意味のない政策である。「天下り」という言葉を再就職と置き換えてみると、この点がはっきりする。日本の大組織の場合、民間でも官庁でも終身雇用、年功序列が人事の基本になっている。(中略)多くの人たちが50歳前後から関連組織に出ることによって、年功序列を維持しながら、人事がまわっていく訳である。こうした慣行を、官庁の場合だけ「天下り」といって非難する理由は見あたらない――

(榊原英資『公務員バッシングの愚』2011年3月28日WEBRONZAより)

   国際競争にさらされる民間企業の日本型雇用は、海外流出と非正規雇用置き換えでどんどん希薄化し、終身雇用も年功序列も減っていくだろうが、官についてはそういった心配は一切ないわけで、下手をすると永遠に残り続けるかもしれない。

   「無理やりにでも天下りを厳禁すればいいじゃないか」と素朴に考える人もいるだろう。でもそんなことやったら、マトモな人材は誰も官僚なんてならないだろうし、そうなったら彼らに政策を作ってもらっている政治家も困るので、強行突破は実現不可能だ。

   要するに、天下りせずとも報われるようになる「流動的な労働市場政策」もセットにしない限り、天下りは絶対になくならないということだ。

有権者自らが変わる覚悟を抱くまで

   終身雇用のせいで、少子化や世代間格差、経済の停滞が続いているという話は、いつも書いている通り。でも、官民の癒着による不始末のコストまで含めるなら、終身雇用を維持するためのコストというのは、我々の想像よりはるかに大きなものかもしれない。

   それでも、世の中には終身雇用の方がいいという人もいるだろう。

   でもよく考えて欲しい。終身雇用で確実に守ってもらえるのは、公務員や大企業の正社員といった、何があっても身分を保障される「雇用の2階建て部分」の住民だけだ。そして、そのためのコストは、中小零細企業の従業員や非正規雇用も含めたみんなで負担しなければならない。

   原発事故で潰れた零細企業従業員は放置しつつ、東電が税金で救済されるのが典型だろう。その費用は、三陸の被災者や飯舘村の避難住人も含めた国民みんなの負担である。

   「天下り禁止」というのは大衆受けが良いので、今後も与野党問わず多くの政党がマニフェストに掲げるだろう。そしてどこが与党になろうが、その公約は実現せずにだらだら時が経つだろう。

   有権者の多数がこういった矛盾に気付き、自らが変わる覚悟を抱くまで、この国から天下りが消えることはない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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