学生からカネを取る!?米国インターンシップの今

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   アメリカには、日本の新卒一括採用のようなシステムはない。大抵の学生は、就職準備の一環としてインターンシップ(企業における就業体験)を経験する。全米に1千万人いる大学生(4年制)の4人に3人はインターンを経験し、そのうち3分の1から半分くらいは無給のインターンなのだそうだ(大学雇用研究所〈CERI〉による)。

   インターンが無給というのは学生がかわいそうだが、最近米国では学生にとってさらに厳しい状況が一般化しつつある。無給というだけでなく、インターンの機会を得るためにカネを払わなければならないというものだ。「タダ働きさせてもらうためにカネを払う」というのである。

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支払先は大学や専門業者

   これにはいくつかのパターンがある。一つは大学に払うというもの。

   2011年4月2日付けニューヨーク・タイムズ紙には、メディア大手のNBCユニバーサルでインターンをした分の単位を認定してもらうために2,700ドル(約22万円)をペンシルバニア大学に払った学生や、テレビ番組「デイリー・ショー」のインターンをするために1,600ドル(約13万円)をニューヨーク大学に払った学生の話が紹介さかれている。

   加えて、ここ数年は「インターンを売買する」業者の存在がクローズアップされている。業界大手のドリーム・キャリアズ社は、5,000ドル(約41万円)から9,500ドル(約78万円)の手数料を払うとインターンを必ず実現できるよう約束します、とうたっている。もし果たせなければ、全額を返還するとのことだ。同社のHPにはこうある。

「世界で最もエキサイティングな都市(ニューヨーク、ロンドン、香港など)で行われる11のインターンシップ・プログラム…住居、食事、交通費などインターンに必要なものは、すべてわが社が提供します。…このプログラムで学生はエキスパートから一対一の指導を受け、面接や履歴書の書き方などを学ぶことで、最終的に希望する分野でインターンができるようになります」

   それから、チャリティーでインターンを買う、というのも行われている。ためしにチャリティ・バズ社(CharityBuzz)のサイトを見てみると、

「Cosmopolitan誌の編集部での1週間のインターンが今1,750ドル(約14万円)」
「9月のニューヨークのファッション・ウィークでCNN特派員のアリナ・チョーに一日インターンとしてつくのが425ドル(約3万5,000円)」

などというのが目に入る。なお、これはあくまでチャリティーなので、支払ったカネは全額寄付される。

   親にとっては子供を大学に行かせるだけでも大変なのに、インターンをさせるために追加の出費を強いられる、というのは納得しがたいところだ。しかし、インターンをすることが就職への足がかりとなるとなれば、何とかしてやりたい、と思うのが親心なのだろう。

大学名だけで採用する日本経済の将来は

「なんだ、結局カネか」

   そう思う向きも多いだろう。確かに、親がそれなりのカネを用意できないと子供がインターンの機会をもらえない、というのは問題だ。それに、

「読み書きもおぼつかない三流大学の学生が、業者の力で一流投資銀行のインターンに採用された」

などという話を聞くと、確かにどうかと思う。

   しかし、これのおかげで、親になんのコネもない有為の無名大学の学生が一流企業にインターンを経験でき、最終的に就職にまでこぎつけた、という例も多いという。新しい学生の採用システムについて、色々と試行錯誤を続けている米国の現状を私は評価したい。

   インターンのよいところは、企業が学生の実力をきちんと見極めることができて、将来性のある学生を発掘できる点にある。また、インターンを通じて、学生が社会人として働くのに必要な基本的スキルを身につける機会にもなる。

   ひるがえって、わが国はどうか。日本では一部の業種を除いてインターンシップが一般化しておらず、いまだに指定校制などが幅を利かせている。特に文系の場合は、とりあえず大学名で採用しておいて、結局使えない場合は窓際族に、というのが相も変わらぬ定番だ。

   企業の採用システムは、日本経済の将来に大きな影響を与える、と私は思うのだが、一向に変革の機運がうかがえないようだ。常に変化に挑戦しているアメリカがうらやましい、と思うのは私だけではないだろう。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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