パスワードにご注意! 敵を欺くには、まず味方から

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   A子さんが同棲している恋人の浮気を疑ったのは、ささいなことからでした。A子さんと彼氏、それにそれぞれの友人6人の計8人で、近くにある評判の良い居酒屋に出かけた時のこと。

   彼氏と以前の会社で同僚だったことがあり、A子さんも面識のあるB子さんに対する彼氏の態度が、どこか親密な雰囲気を醸し出していました。

「女の勘、なんです。普通には、別にどうってことない、ただ親しい友人どうしが気をつかっているだけにしか見えなかったと思います。来ていた人たちは、みんな私と彼のこと、それに彼とB子が元同僚だったことを知っていましたから」

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カマをかけたら動揺「これは当たりだわ」

   なにかがピンときたA子さん。帰り道、さり気なく探りを入れてみました。

「B子ちゃん、しばらく見ないうちにキレイになってたね、恋してるのかしらね、って。すると、彼は『え!なんで突然そんなこと言うの!』って、なぜだか動揺するんですね。だって、そう見えなかった?と続けると、『いや、ぜんぜん。それより…』って別の友人の話に無理やりもっていこうとする。あ、これは当たりだわ、と」

   部屋に帰りつく直前、彼氏はコンビニでビールを買っていくから先に行っててくれ、とA子さんに言いました。

「私はもう疑惑で頭が一杯ですからね。これはB子からメールが来たか、あるいはB子へメールをしようとしているに違いないと、またもピンと来てしまったんです」

   そこでA子さんは、自分の分も買ってきてほしいと頼んで、あえて先に帰りました。お相伴をするフリをして酔いつぶし、彼のスマートフォンをチェックしてやろうと考えたのです。

   20分ほどして彼氏は帰ってきました。A子さんは、わざと「誰かにメールでもしてたの?」と声をかけました。

「えっ!なんだよ、それ?ちょっとマンガ立ち読みして、コンビニが混んでただけじゃん」

   彼氏は言い訳しましたが、A子さんには勝算がありました。いくら混んでいても、買うビールの銘柄は決まっているし、歩いて2、3分のところにあるコンビニから20分は、いかにもかかりすぎです。

「こういう時、彼はムキになって反論してくる人。絶対に、だったらスマホのメールをチェックすればいい、って開き直る感じで言ってくる。そこまで疑ってないわよと、こっちが逆に悪いことしてるかのように、雰囲気を変える作戦をとってくるんですね」

ロック解除の「4ケタの数字」は?

   案の定、彼氏は「スマホ、チェックしてみる?」と言って、ダイニングにあるテーブルの上に、これ見よがしにスマートフォンを置きました。

   すぐにはそれに触れず、買ってきたビールをグラスに注ぎ、簡単なつまみをつくって彼氏に飲ませたA子さん。想像どおり、すでに居酒屋である程度飲んでいたこともあり、彼氏は30分ほどで寝ると言い出しました。

   片づけてから私も寝ると告げたA子さんは、ゆっくり片づけと洗い物をし、彼氏が寝息を立てていることを確かめたうえで、いよいよテーブルの上に放置されたままのスマートフォンのチェックを始めました。

「だって、自分からチェックしてもいいみたいに言ったんだし、寝た後で見たらいけないとも言ってないし」

   ところが、ひとつだけA子さんが想像していなかったことがありました。そう、スマートフォン本体にロックがかけられていたのです。ロックを解除しないと、なかのメールもチェックできません。ロックの解除には、4ケタの数字が必要です。

「彼は、たとえば5963(ごくろうさん)みたいな、数字の語呂合わせをよく言う人なんです。で、どうせ数字の語呂合わせだろうと想像はついたんですけど、さて何だろう、と」

   単純すぎるものではなく、ひと捻りはしてあるだろう。そう考えたA子さんは、しばらく思案しました。適当に打ってるうちに、機器本体からパスワードの変更を求められてしまっては、チェックしたことがバレてしまいます。

   A子さんは、チェックしていないと見せかけて、イザという時に証拠をいきなりぶつけてやろうと考えていたのでした。「74924(なしくずし)とか、やりそうなんだけど4ケタじゃないし」と考えているうち、パッとひらめいたのが「2109(ツイオク)」。

浮気の証拠は速攻で削除しよう

「しばらく前に、ネットが趣味って言ってた知人のことを悪く言ってて、その時に『ツイッターとオークションが趣味のツイオクの人。オタクって言葉ももう古いし、これからはネットに依存してるヤツらのことはツイオクの人って呼べば、なんかダメなヒト感があっていいじゃん』なんて。根拠はないんですけど、ちょうどスマホを買った直後だったし、これなんじゃないかと」

   1回ぐらいの誤入力ではパスワード変更も求められないだろうと、思い切って「2109」を入れてみると、これがビンゴ。若干の興奮状態でメールを見てみると…。

「B子との赤面するような文面のやり取りが、なんと500通ほども出てきたんです。そのうち浮気の動かぬ証拠となるもの50通ほどを表示した画面を、自分のケータイのカメラで撮って保存しました」

   実は、A子さんと彼氏とは、まだ別れてはいません。A子さんが「自分に優位な立場で別れ話を切り出すため」のさらなる証拠固めをしている最中だからです。

   安全のためパスワードを定期的に変えてください――。ネットやIT系の機器やサービスの注意書きに、よく書いてあります。これまでは、誕生日やクルマのナンバーでもなければ、そう簡単に見抜かれることはないとタカをくくっていました。

   恐るべきは、女の勘。それでなくても、便利なアプリを偽装し(勝手に付属してくる)、勝手に悪意のあるサイトと通信して保存してある情報を流出させるような、悪質なマルウェアがはびこってきています。

   大切な情報を失ったり、機器に不具合が出るのを防ぎたければ、スマートフォンに限らずパスワードには十分注意してください。あと、浮気の証拠となるメールのやり取りや通話履歴は、速攻で削除。これは、もはやデフォルトです。

井上トシユキ


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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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