夏の節電のために、NTTがグループ8社、5万人を対象とした在宅勤務を導入すると、2011年4月27日付の産経新聞が報じた。技術部門や顧客情報管理部門など一部の部署を除き、「ほぼ全員が週に数日の在宅勤務を取り入れる」としている。
NTT(持株会社)広報に取材したところ、「あらゆる方向で検討しているが、決定事項はなく事実と言えない」と回答があった。もし検討中だとしても、これだけの規模で在宅勤務を導入する実現性は果たしてあるのだろうか。
管理部門に在宅勤務を導入する例も
在宅勤務について企業からの相談を受け付ける「テレワーク相談センター」によると、総務部や経理部などの管理部門を含め、全社的な在宅勤務を推進している会社はいくつかあるという。
一例として紹介されたのは、川崎市の富士通ワイエフシーだ。同社は、2007年4月から在宅勤務を本格的に導入。当初は「入社3年以上の条件」を設けていたが、現在は試用期間中を除くすべての社員が対象となっている。
会社に申請を出し、セキュリティや運用ルールなどが書かれた「誓約書」にサインするだけで、誰でも在宅勤務を行うことができる。
主なルールは、3つ。ひとつめは部内のミーティングに参加するために「週2回は出勤日を設けること」。対面コミュニケーションの機会は、ある程度必要という考えだ。具体的な実施スケジュールは、上司と相談のうえ決める。
2つめは、際限のない働き方を防ぐために「原則として自宅では残業をしないこと」。3つめは、在宅勤務をしたかどうか自体を「業績評価に反映させないこと」だ。
内線電話を転送するPHSを貸与し、就業時間中の社内連絡をいつでもどこでも受けられるようにする。配付される専用パソコンはセキュリティを確保し、職場と同じデータ環境で仕事をすることが可能になっているという。
現在、在宅勤務を申請している人は対象社員の35%程度だが、東日本大震災に伴う交通機関の混乱に遭遇した従業員からは、これを機に在宅勤務を利用しようと申請するケースが増えた。上司から「本日は在宅勤務でOK」のメールを送った部署もあった。
「できない理由」ではなく「できる部分」に着目
在宅勤務の準備は、急な災害だけでなく、インフルエンザなど感染症の流行への備えになる。子育てや介護などで通勤が困難な人でも勤務できる環境となり、優秀な人材の確保という点でもメリットがある。
営業部門なら、事業所への立ち寄りをせず、直行直帰で仕事をすることも可能だ。
運用のコツについて、同社ワークライフバランス推進室長の法林佳世氏は、業務や社員の個別事情を踏まえて導入する必要性を説く。
「最初から部署や業務、勤務年数などで条件を定めるのではなく、原則すべての人に権利を与えた上で、どの部分が在宅勤務でも可能なのか個別に見極めることが必要です」
総務や経理であっても、在宅勤務でも可能な業務はある。一律に対象から外したり、無理に在宅へ移行することをしなければ、働く人のニーズにあわせてスムーズに柔軟に導入できる。
ソフトバンクグループでも、ほぼ全社員に当たる約2万人を対象に、在宅勤務システムを導入する計画を発表している。同社の場合、家庭のパソコンやモバイル端末などから、職場のパソコンと同じデスクトップ環境を使えるようにするという。
NTTグループの「5万人導入」にも、秘策があるのだろうか。新しいツールのリリースも相次いでいる。「できない理由」から考え始めるのではなく、「できる部分」から始めてみるのがよさそうだ。