先日発表された「理系出身者と文系出身者の年収比較」(経済産業研究所編)によると、理系出身者の年収の方が、文系出身者よりも平均して50万円以上高かったそうだ。この結果は、個人的な肌感覚とも一致している。
理系の方が就職や転職に際して選択肢が多く、しかも付加価値の高い職種が多いのだ。たとえば新卒でいえば、「理系で営業職」というのは普通にありえる(むしろ、そういう人材は歓迎されることが多い)が、「文系で技術系」というのはまず無理だろう。
ただし、世の中にはなぜか「理系の方が虐げられている」という被害妄想を抱く人も少なくないので、よくある誤解についてまとめておこう。
搾取しているのは「文系」ではない
まず、「某大学の文系卒業生の方が、生涯賃金が5000万円高かった」という1998年の阪大調査について、一時期、一部のメディアで盛んに取り上げられたので、今でも引用する人がたまにいる。
結果自体は間違いではないが、原典をよく見ると分かるように、文系50代の年収が2000万円前後と、金融自由化以前の都銀以外ではありえない金額である。
というわけで、この調査は(調査対象大学非公開ながら)「東大クラスの卒業生で団塊より上の世代で比較すると、文系の方がいっぱい稼げた」と総括すべきだろう。一般的な大学かつ団塊以降の世代にとっては、意味のある数字ではない。
次に、「理系は外資の方が高い」説。特にIT系だが、「外資に転職したら100万円以上賃金が上がった」という声をしばしば聞く。ただ、日本企業の場合は終身雇用という目に見えないコストを会社に負担してもらっているので、単年度ベースでの比較は難しい。
筆者の知人に、大手電機からサムスンに年俸10万ドルで引き抜かれたものの、金融危機でリストラされた人間がいる。長い目で見れば、どちらが高いか低いかは分からない。
それでも、理系は「やはり働きの割に給与水準が低い」と思う人は、「俺は文系に搾取されているに違いない!」と断定する前に、冷静に周囲を見回して欲しい。
社内に万年赤字事業を抱え込んでいないか。どう考えても貰い過ぎだろうという中高年社員はいないか。あるいはOBに毎月何十万もの企業年金を払っていないか。
上記に思い当たる節があれば、おそらく君が「報われていない」のは、文理云々ではなく、雇用システムや社会保障の世代間格差が真犯人だろう。現状に対して声を上げることは必要だが、改善には問題の本質を正しく理解することが必要だ。
城 繁幸