外資系の金融機関に勤めていると、ヘッドハンターにお世話になることが多い。私も何十人ものヘッドハンターに会ってきた。
ヘッドハンターとは、人材紹介業者のこと。「ヘッド(頭)ハンター(狩人)」とは「人買い」を思わせる野蛮な響きがする言葉だが、彼らはよい人材を探している会社と、働き口を探している人を結びつける大事な役割を担っている。
細かい専門分野を持ち、人材に目を光らせる
ヘッドハンターの多くは、業種の専門を持っている。それも、金融業界やIT業界に強いといった大雑把な区分けだけでなく、「債券トレーダーの人脈が多い」とか、「特定の金融機関の人事は何でも知っている」というような人がいる。
外資系でキャリアを積んでいくと、自分の専門分野を得意とするヘッドハンターから自然と声が掛かってくることになる。逆に言うと、ヘッドハンターから見向きもされないようでは、先行きは暗いということだ。
「顧客」たる個人にとって、ヘッドハンターの有益性は以下のような点にある。
ひとつめは、今勤めている会社からクビを言い渡される時に備えて、準備をしておくことができる点だ。クビを宣告されてから職探しをするのは時間的に厳しいし、職を失った人間はどうしても足元を見られる傾向がある。「転職する必要はまったくないが、話ぐらいは聞いてもよい」という態度で交渉に臨めるというのが理想的だ。
ふたつめは、自分の市場価値を確認し、より条件のよい会社があったらいつでも自分から移れるようにしておける点だ。よい話はどんなタイミングでやってくるかわからない。日ごろから網を張っていないと魚は採れない、ということだ。
中には、上司に「X社から年棒2割アップのオファーがあったので、昇給を考えてくれないか」といった交渉をする人もいる。もちろん会社側も、競合他社の給与事情くらい百も承知であるのだが…。
地中海キプロスから「君のことを知っている」
私がBNPパリバに入社したのも、ヘッドハンターからの一本の電話がきっかけだった。
見慣れない国番号からの電話だが何だろう、と思って受話器を取ると、地中海キプロス島在住のヘッドハンターだという。何でも、「BNPパリバ東京で株式アナリストを探しているが、応募してみないか」という話だった。
私は「株式アナリストの経験はないので難しいと思う」と言ったが、彼は「君についての詳細なデータを持っている。君のキャリアと実績だったら十分やれるはずだ。よいチャンスだと思うので、トライしたらどうか」とのこと。
私のことが、どう回りまわってキプロス島にまで伝わったのかは定かではなかったが、そう言われれば前向きに考えてみようと思うのが人情。ちょうど新しい仕事にチャレンジしたいと思っていたときでもあったので、幹部との面談を応諾し、結局お世話になることになった。
ヘッドハンターの収入は、雇う側の企業からのフィーがすべて。当時の相場は、転職先の初年度年収の3か月分と言われていた。キプロス島の海岸から携帯電話をかけてきた彼は、東京と何度かやりとりするだけで、結構な報酬を手にしたわけだ。
楽な仕事もあるものだ、と考えるのは、もちろん間違い。ヘッドハンターの価値は、その調査能力と創意工夫にある。それさえあれば、地中海の島のビーチで寝そべりながら仕事をして収入を得ることもできるということなのだろう。見習わなくっちゃ。
小田切 尚登