米銀行の「レポートの書き方」が要求していること

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   言葉には「読む」「書く」「聴く」「話す」の4要素があるが、中でも「書くこと」はビジネスにおいて非常に重要だ。大事な内容を口頭で済ませるわけにはいかず、文章によって読み手を納得させる技術をつけなければならない。

   英語圏では日本に比べ、この点が非常に重視されている気がしてならない。そこで今回はビジネスレポートの書き方について、私の経験を交えて書いてみたい。

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「5つの形容詞の1つを書け。例外は認めない」

結局、良いのか悪いのか、結論を先に言って欲しい
結局、良いのか悪いのか、結論を先に言って欲しい

   私がバンク・オブ・アメリカの審査部にいた時の話だ。審査部は顧客企業の分析レポートを書くのが仕事だが、当時銀行内には「審査レポートの書き方マニュアル」というものがあった。数百ページの大部のもので、世界中のオフィスで使われていた。

   今でもはっきり覚えているのは、「企業の審査レポートを書くときは、各項目(収益力、流動性…等々)の分析の冒頭に、次の5つの形容詞(句)の1つを書け。例外は認めない」という個所だ。

Very strong(非常に強い)/Strong(強い)/Moderate(まずまず)/Weak(弱い)/Very weak(非常に弱い)

   この中のひとつを最初に書くことで、良いのか悪いのか普通なのか、という結論をはっきり示せ、というものだ。

   なぜこんなやり方を強制しているのか。最大の理由は、重要なポイントを最初に書けば、他を読み飛ばすことができるためだ。読者は忙しく、必要な情報をできるだけ手短に知りたいと思っている。逆に、結論がレポートの中に埋もれていると、読み進めないとポイントが分からないので非効率だ。

   結論を先に書くことによって、レポートの「論旨」もはっきりする。最初に「非常に良い」と結論づけると、その後は、なぜ非常に良いのかを説明しなければいけない。分析に良い点・悪い点どちらもすべて勘案するのは当然だが、結論がまず示されることで全体の方向感が生まれる。

「あとは読み手が判断して」では意味がない

   なお、5つの形容詞(句)は、それぞれどういう規準で使うべきかの「使用法」「定義」がマニュアルで明確に決まっているので、読み手は形容詞を見れば相対的・絶対的評価が分かる。「かなり良い」とか「ずいぶん悪い」とか言われても、その言葉の定義がなされない限り、どう判断すべきかわからない。

   一方、経験の浅い日本人はこんなレポートを書いたりしがちだ。

「A社の売り上げは前年度比XX%のアップだった。アジア地域での売り上げが好調だったためだ。一方で経費もYY%アップした。その結果、経常利益はZZ%ダウンした。しかし株式の売却のため、特別利益がXX億円あり…」

   このような事実は分析の材料として大事だが、それだけ書かれても、読み手がどう判断すべきかが分からない。料理人が食材の用意だけをして「あとは食べる方がご自由に料理してください」と言っているようなものだ。

   こういう書き方をする人に「この会社はどうですか?」と聞くと、「これこれの良い点がありますが、これこれの問題点もありまして…」などとダラダラ言われて、結局、全体として良いのか悪いのかを知ることができなかったりする。

   あるいは逆に、「この会社は親会社の丸抱えなので、まず潰れることなんてないんですよね」などとサラッと言われたりする。そんな重大なポイントがあるのなら、ちゃんとレポートの最初のほうに書きなさい!

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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