前回は、欧米に数多く存在する超長距離通勤者について書いたが、今回はその逆ともいえる在宅勤務に焦点を当ててみたい。
アメリカでは在宅勤務をする人が増えてきている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、全米で3500万もの人が在宅勤務をしているという。
仕事への充実度が高く、女性にもチャンス
米国の総労働人口は1億4000万人なので、4人に1人が在宅勤務をしている計算になる。2000年に2000万人に過ぎなかったことを考えると、大幅な伸びだ。
在宅勤務が増えた最大の原因は、ネットその他のテクノロジーが発達し、遠距離でも仕事ができるようになったところにあると思われる。労働者にとって在宅勤務は、以下のようなメリットがある。
・通勤の時間と費用がかからない
・家族との触れ合いの時間がとれる(特に子育て中の夫婦にメリット大)
・自分の都合で働く時間やスタイルを決められる
・会社の同僚や上司との煩わしい人間関係から逃れられる
実際、在宅勤務の労働者の多くは、充実感をもって仕事をしているようだ。アメリカン・ビジネス・コラボレーションの調査によると、在宅勤務者の76%は仕事から高い満足を得ているという。通常の勤務形態の場合は56%なので、それよりもかなり高い。
かといって、在宅勤務者がラクをしているというわけではない。在宅勤務者は週に44.6時間働いており、一般の平均42.2時間よりも長い。
在宅勤務で特に重要なのは、女性に新たな雇用の場を提供しているという点だ。米国において自宅でビジネスをしている人の過半数は、女性である。女性が経営するコンサルティング会社(在宅勤務以外も含む)の平均年収は、15万ドル(約1,230万円)を超えるという(2006年)。
なお、在宅勤務者の中には、フリーランス(個人事業主)と会社に雇われている人がいるが、米国では明確に区別された数字はなかった。もっとも会社に雇われていても、いつクビになるか分からないので、区別する意味合いは強くないのかもしれない。
遠隔操作で「ハードな議論」も可能に
このように在宅勤務には、従業員にとって大きなメリットがある。しかし日本では、在宅勤務はなかなか広がっていない。
これには、いくつか理由がある。自宅が狭く仕事をするのに適した環境ではない、会社自体のIT化が遅れている、といった点だ。しかし、日本独特の別の問題もある。
多くの日本企業で何より大事とされるのは、「職場の人間関係」と「会社に対する忠誠心」であるが、在宅勤務では職場の同僚と濃密な人間関係が構築できない。このため、一部の業種を除いて、日本企業で在宅勤務を広めるのは難しいようにみえる。
これに対して、一つの解決になる可能性を秘めているテクノロジーがある。ロボットである。
カナダのトロントに住むマイク・ベルツァー氏は、3,500キロ離れたシリコンバレーにあるモジラ社(ブラウザのファイヤーフォックスのメーカー)の役員。彼は社内では、縦型の掃除機のような本体に15インチの液晶画面がついたロボット(テレプレゼンス・ロボット)として存在している。ロボットを遠隔操作することで、会議に参加したり同僚と雑談したりするのだ。
単に物理的にコミュニケーションをとるだけであれば、ネットやビデオ会議などでも可能である。「しかし」と、ベルツァー氏は言う。「ロボットだと、自分が実際にその場所にいるのと同じような人間関係を持てます」。それに「部下の査定や技術的な議論といった、ハードな議論がしやすいんです」。
ロボットが将来の勤務の姿なのかどうかはわからない。しかし、働き方が今後さらに多様化していくことは間違いないところだろう。
小田切 尚登