おサイフに電話帳、メール… ケータイに「機能集約」するリスク

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   「久しぶりに冷や汗かいたわ」。A子さんは40歳を超えたいまでも、にわかには信じられないおかしなことを時々やらかします。今回は、というと――。

「それがね、ケータイを電車の椅子に忘れてきちゃったのよ。ケータイ片手に、これから訪問するクライアント向けのプレゼン資料に書き込みをしてたんだけど、降りる時に慌てて、なぜか左手に持ってたケータイをわざわざ椅子に置いて飛び出しちゃったのね」

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アレがなければ「客先の電話番号も分からない」

   あ、ケータイ、と思った時にはすでに扉は閉まり、電車は動き始めていたそうです。

   しかたなく改札へ走り、駅員にワケを話しました。忘れ物や落とし物は、「拾得物とりまとめ駅」と呼ばれるターミナルにまとめて保管されるとのことで、依頼を出しておくからと言われました。

「ところが、乗っていた電車はさっき行ったところ。終点まであと30~40分は走るって言うし、途中で拾った人が届けてくれても、終点に着いた後の車内点検で見つかっても、取りまとめ駅に持ち込まれるのにさらに時間がかかる、って」

   クライアントとのアポイントには、まだ1時間ほどあったのは、不幸中の幸い。しかし、困ったことがありました。「おサイフケータイ」を使って改札を通っていたのです。

「しょうがないから、正直に乗車駅からの運賃をキャッシュで払ったわよ。じゃないと、駅から出れないんだもん」

   駅周辺で公衆電話を探して会社へ連絡、緊急の用件があった場合は、クライアントへ同行する同僚のケータイに連絡してほしいと頼みました。

   少々長引いたものの、無事にプレゼンを済ませたA子さんは、急いで駅へ直行。駅員に訊ねると、とりまとめ駅に届いているようです。

   その駅へ寄ったとして、次の打ち合わせにはギリギリで間に合うタイミング。しかし彼女は、迷わず受取りに行きました。

「だって、『おサイフケータイ』を使われてたらイヤだし、次の仕事に遅れるにしろ、ケータイがあったら連絡できる。っていうか、ケータイがないと打ち合わせに行く客先の電話番号がわからない(笑)。
会社に連絡して名刺を見てもらうにしても、公衆電話がすぐにありゃいいけど、最近は駅や駅前でも端っこの方とか目立たないところにしかなくて、探すのが面倒」

「3個持ち」ならデータの同期も面倒

   結局、ケータイはちゃんと戻り、「おサイフケータイ」も使われていませんでした。

「届けてくれた人には感謝してるわ。ほとんどが名乗らずに届けるだけらしくて、今回も誰だかわかんないんだけど。
それにしても、なんでもかんでもケータイやスマホに集約しとくのって、便利だけど反面、危ないよね。忘れて見つかったからまだよかったけど、壊したとか水没させて使えなくなったとなると、一気に何もできなくなってハダカ同然になるな、って思った」

   データは外部のストレージなどにバックアップしておけばよい、会社や自宅のPCから呼び出せるようにしておけばよいといっても、その場に端末がなければ何もできません。

   ノートPCやタブレットPCとスマホとケータイと3個持ちで、重要なデータは同期させておき…、ってなんだか面倒だし、カバンが重そうです。なくさないよう壊さないよう、気をつけるしかないですね。

井上トシユキ


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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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