厚生労働省が音頭をとって進めていた、中小企業と学生の橋渡しを目的とした「新卒インターンシップ事業(新卒者企業実習推進事業)」がガラガラだったのだそうだ。5000人集める予定が、たったの20人。参加企業も34社という惨状だったらしい。
もっとも、橋渡しとうたっておきながら「採用目的でのインターンは行うな」という縛りつきでは、企業も学生も乗り気にならないのは当然だろう。企業も学生も“就職”という共通のゴールを共有しているからこそ、就職活動やインターンのような手間暇をかけるわけで、それを禁じられればインセンティブを持てるわけがない(実際、経済産業省管轄の「ドリームマッチ・プロジェクト」のように、縛りのないプロジェクトは軌道に乗っている)。
「日本型雇用の矛盾」顕在化させる諸刃の剣
ただ、厚労省の目のつけどころ自体は悪くない。ネームバリューの無い中小と学生との間のミスマッチは事実だから、インターンシップを事実上の「お試し期間」として認め、企業に期間中の契約解除ルールを明文化すれば、双方にとって魅力あるシステムになると思う。
今、企業が求めているのは柔軟な雇用形態であり、インターンという形で事前チェックできるだけでも、ずいぶん敷居は低くなる。学生にとってもブランクを避け、OJT経験を積めるよい機会になるはずだ。
とはいえ、うまくいきすぎれば、これは日本型雇用にとっては諸刃の剣にもなりえる。当たり前の話だが、
「インターン以外での試用期間にも、同じルールを適用すればいいじゃない」
「既存の正社員にも共通の解雇ルールを作るべきだ」
なんて流れが起こるだろうし、そしてそれは正しい要求だ。
要するに「新卒で40年間の雇用契約を結べ」という現行の雇用制度自体に無理があるのだ。そして、そこから漏れてしまった学生を支援するために手を打てば、それが有効な政策であればあるほど、現行制度の矛盾が顕在化してしまうというわけだ。
経産省に負けじと新卒支援プロジェクトを始めては見たものの、大して宣伝するわけでもなく、20人応募という惨憺たる結果に終わった今回のプロジェクトからは、そういう厚労省のジレンマが透けて見える。
このまま有効な政策をうてないまま、無能役人のレッテルを貼られるか、それとも自ら本質に切りこむ政策を打ち出し国民の信頼を勝ち取るか。1億8千万円を投じた今回の失敗から、せめて進むべき方向を学んで欲しいというのが、一納税者の正直な思いである。
城 繁幸