東北関東大震災の2日後、2011年3月13日の夜遅く。東京電力は「計画停電」の実施を発表した。これを受けて国土交通省は14日未明、鉄道運行への影響を考慮し、国民に「通勤・通学を控えるよう」と呼びかけた。
しかし、多くのビジネスパーソンは、すでに就寝中。ネット上には「休みを決定する人間はもう寝てるよ」「会社側がゆるさねえだろ」と、タイミングの遅さと呼びかけ内容のあいまいさに不満が起こった。
国の呼びかけにも「逆に早めに出てこい」
国交省の深夜の呼びかけにもかかわらず、会社を休みとするかどうかの判断は、各企業に任されている。ネット上、深夜1時過ぎにもかかわらず、報道を見た上司から、
「逆に早めに出てこいとかメール来やがった」
「電話来たから出たら『6時に来い』でした」
と、計画停電を見越して早く家を出るよう連絡を受けた書き込みがあった。
結局、間引き運転や運休が実施される中、通勤を控える人もあまりいなかったためか、月曜朝の通勤ラッシュは大混乱となった。
15日付読売新聞によると、JR大宮駅前のタクシー乗り場の列は100人を超えた。駅にまで来たものの、電車に乗れる見込みがないためだ。新宿に向かう49歳の会社員は、
「何としても出社しろと言われ、午前6時半から2時間待っている」
と疲れた表情で答えたという。ネット上の書き込みそのままの命令を受けた人が、実際にいたようだ。東武東上線の川越駅では、「西武は動いている、情けない」と駅員に詰め寄る人もいたらしい。
ブログ「Chikirinの日記」のちきりんさんは15日のエントリーで、揶揄している。
「この国のサラリーマン界には、『ストでも大雪でも台風でもY2K(注:2000年問題)でも、何があっても出社できた社員しか出世させない』という鉄の掟があります。なので彼らは必死で出社する。その結果、朝の駅が大混乱したというわけです」
大手企業「自宅待機でも構わない」
朝日新聞の15日付社説では、「多くの駅では人々が辛抱強く列をなし、黙って満員電車に揺られた」光景を称えている。
「がれきの中で十分な暖もなく、一生懸命に家族をさがす被災地の人たちを思えばこそ、『この程度のことで』と自制する気持ちが整然とした行動につながったようだ」
確かにそういう気分もあっただろうが、もしその辛抱が、してもしなくてもよいものであったなら…。都内に勤務する30代の会社員は「普段の2倍の時間かけてヘトヘトになって出社したのに、電話もロクに使えずじまい。仕事にならず、3時過ぎに上司から『今日は解散だな』と言われガックリ」と打ち明ける。
一方、社長自らが出社制限について、いち早く通知した例もある。楽天の三木谷浩史会長は13日夜、ツイッターで、
「Jeba(注:eビジネス推進連合会)加盟企業の皆様、とりあえず奇数、偶然日で社員番号でわけ、出社数半分を提案します。頑張ろう日本!」
と呼びかけた。14日朝、奇数偶数方式を取り消し、「交通状況を鑑み、出社できる人が出社してください」と変更したものの、経営者の迅速な判断が印象に残った。
日産自動車や資生堂、アサヒビールなど大手企業の一部でも、14日朝に「自宅待機でも構わない」という連絡を回した会社もあったようだ。ただし、どの程度の人が「通勤困難」という判断をして自宅待機をしたかは不明だ。