東北関東大震災で強いストレスを受けているのは、直接の被災地の人たちだけではない。被災地以外の人たちも、メディアを通じて情報を受け続けた結果、心身に不調を訴える人が出るおそれがある。
被災者を支援する私たちがしっかりするために、どういう点に留意すべきか。連載「ヨソでは言えない社内トラブル」の筆者のひとりである、臨床心理士の尾崎健一氏に寄稿してもらった。
いま被災者を癒すのは「物理的支援」
今回の震災のような甚大な被害を及ぼす災害は、人間のどのような反応を引き起こし、どう対応すべきなのか。心理的なクライシス・マネジメントの側面から考えてみます。
まず、私たちは被災者の状況を理解すべきです。被災者は非常に強いストレスを受けており、メンタル面のケアが必要なのは間違いありません。しかし、それは生命と安全の保証が確保されてからの話です。
被災してすぐに必要なのは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、十分な「物理的な支援」を行うことです。
被災者を癒すのは、十分な食料品や電気・ガス、情報を得るためのラジオや携帯電話、生活衛生用品などがある「暖かい場所」です。励ましや同情の声は、物理的な支援が十分でないうちは、被害を受けた人に届かない場合もあるものです。
物理的な支援が満たされるうちに、被災者には「自分の力で立ち上がって復興しよう」という力や意欲が湧いてきます。必ずしも自分たちを「かわいそうな人」とは考えず、「また以前のような生活に戻そう」と思う人も少なくないものです。
私たちの目的は、被災者に生きる力を回復してもらうことです。被災状況によって異なるでしょうが、被災地のひとつである仙台にいた人からは、被災者からの「復興へのエネルギー」を強く感じ、報道とのギャップを感じたという声も聞かれます。
なお、物理的な支援といっても、古着や食料品などをダンボールで送ったり、自家用車で現地に乗りつけたりする行為が必ずしも歓迎されないことは、阪神・淡路大震災のときに学んだはずです。
後述するように、このような危機に「いてもたってもいられない」気持ちになる人がいますが、これは望ましいことではありません。再度まとめますと、いますぐに私たちができるのは、無駄な電気を使わず、信頼できる機関を通じて金銭的な支援を行うことがメインになるでしょう。
メディアの刺激で「抑うつ」や「興奮」が起こる
被災地以外の私たちに、これからどのような影響が起きるおそれがあるのか。陸路が回復しメディアのカメラが現地に入り始めると、テレビではショッキングな映像が放送され、新聞・雑誌には写真が掲載されはじめます。
遺体の写真もあるでしょうし、泣き叫ぶ子どもの映像が流れるかもしれません。視聴者は積極的に見たいと思っていなくても、テレビをつけっぱなしにしていれば、自然と目にしてしまいます。
このような情報にさらされた人間の心身には、次の2つの反応が起こりえます。
ひとつめは「抑うつ的反応」です。気分が悪くなり、何もしたくなくなってしまう。緊張状態が続き、食欲もなく眠れなくなってしまって、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病に至るリスクもあります。
もうひとつは「亢進(こうしん)的反応」です。抑うつとは逆に、興奮状態、躁状態になってしまい、落ち着いた行動ができなくなってしまう。何かせずにはいられない気持ちだけが高まって、泣き叫んだり、衝動的な行動をしてトラブルを引き起こしてしまったりすることもあります。
直接被災していない人がこのような心理的状況に陥る原因は、「メディア」からもたらされる情報です。情報量という点でいえばネットが優位でしょうが、情報源を選ばないと、いたずらに不安を煽る情報やデマに振り回されます。
あらゆる情報を自分で集め、自分で判断することは不可能です。テレビやラジオで信頼できる「情報」を確認しながら、ショッキングな「ニュース映像」から適度に距離を置くことも必要です。
「早寝早起き」で節電と健康維持を図ろう
メディアと適度な距離をとりつつ、普段どおりの生活を送るうえで、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。まずは節電効果を考え、「早寝早起き」をすることをおすすめします。
深夜までニュースを見ていると、それだけ電力がかかります。睡眠を十分とり、ニュースは早朝のテレビと新聞で入手するようにすると、節電効果が上がると思います。
心の安定を保つために、好きな本を読んだり音楽を聴いたりして、震災以外の情報を得ることもよいと思います。空を見上げて朝日や夕日を見たりして、リラックスする時間も必要です。
心許せる人とゆっくり過ごしたり、会話をしながら食事をするなどの時間を持ちましょう。ストレッチなどの軽い運動も心の安定には役立ちます。
大手企業から大規模な義援金や救援物資が提供されている、というニュースもありますが、これも通常の経済活動が滞りなく行われてこそです。
被災地以外の皆さんが日々の生活を元気に過ごすことが、間接的に被災地への貢献になっていると考え、心身の健康には十分留意してください。そして、必要とされる支援依頼が来たときには、力を結集しましょう。