甚大な被害をもたらした「東北地方太平洋沖地震」。2011年3月11日午後の発生直後から、たくさんの人がケータイやスマートフォンで被災地、あるいは友人と安否確認の連絡を取ろうとしたようです。
Aさんは、震災に遭った福島県浜通りの出身の女性です。「その時、たまたま用事があって錦糸町にいて。大混乱のなかを歩いて中野の自宅へ帰りました。その間も、実家や地元の友人に連絡をとろうとケータイで電話をかけたり、メールを送ったりしたんだけど、ぜんぜんつながらなくて…」
公衆電話、関西経由で連絡とれた
発生直後の夕方には、そう不安そうに話していたのですが、その後、帰宅してテレビを見てパニックに近い状態になってしまったそうです。
災害用の伝言板には書き込みを残しましたが、返事がなく、家族や地元の知人、友人の安否はわからないまま。
彼女はツイッターなどのソーシャルメディアを使っておらず、家にパソコンもないので、実質的にテレビしか情報源がありません。
「原発にわりと近いところが実家なので、本当に不安だけど、まさか歩いて行くわけにもいかないし。そもそも、歩いて行こうにも道路が通じてないみたいだし、ただ東京で心配してるしかないんです…」
Bさんは、ちょっと工夫をして、被災地にいる知人や関係者と連絡をとることができたそうです。
「地震の影響が少なそうな関西方面に公衆電話を使って連絡、そちらから連絡をとって無事を確認してもらいました」
災害が起きたときや年末年始など、人々がいっせいに連絡をとろうとするときにケータイは通信制限を実施するから、今回もダメだろうと考えたのだとか。
飲食店を経営するCさんは、姉夫婦が千葉に住んでいます。
「客室乗務員の姉に聞いていた予定では、午前中に成田へ降りているとのことだったので、ちょうど家に帰った頃に地震があったはず。そう思ってスマホを使い、ツイッター経由で安否を訊ねましたが、なかなか送信できないし、返信も来ない。
パソコンを使って、店のブログのコメント欄にも書き込んだのですが、返信がなく、とても心配しました。ただ、ネットはちゃんとつながってましたよ」
インターネットは、もともと軍事用の連絡手段として開発されただけに、さすがにまったく使えないということはなかったのでしょう。
報道によれば、KDDIの東北と関東を結ぶ陸上と海底のケーブルが切れてしまっていたとのことなので、AUユーザーで困った人は多かったのではないでしょうか。
興奮してデマを【拡散希望】する人も
ケータイやネットを使って、ソーシャルメディアで連絡をとっていた人に苦言を呈するのはDさん。
「【重要】【拡散希望】とタイトルに付けたツイートや書き込みが多すぎる。一時は、まるでチェーンメールみたいになっていて、あちこちから来ていました」
中身はといえば、被災地の人に迷惑になるから無駄なツイートは控えよう、というもの。
「【拡散希望】と付けて送れば送るほど、この呼びかけ自体が無駄な負荷になることに気づかないのかねえ」
Eさんは、そんな無駄な書き込みにイライラしたとか。有害物質の雨が降るとか、次はどこで大地震とかのデマや、それを取り消す情報を、興奮してリツイートする人も、ずいぶん見かけたそうです。
「それも、一次情報を書き換え、わざわざ非公式リツイートしている。目立ちたがり屋としか思えない。海外から日本人への励ましのメッセージを送る『#prayforjapan』というハッシュタグが、一時は日本語のツイートで埋め尽くされてたけど、あれだって本末転倒じゃないかな。#マークを外すとか、英語で感謝を返すとか工夫すべきでしょう。
無駄なツイートは控えようと“拡散”していた本人たちが先頭に立って何をしているのだ、と」
冷静に考えて行動する。非常時において、もっとも大切なこの教訓が、今回のケータイやスマホの利用にも隠されていたといえます。
バラバラだったケータイの「緊急地震速報」
それにしても、不思議なのはケータイの「緊急地震速報」です。筆者の元へは、3月11日の大規模な地震についての速報は配信されてきませんでした。
いろいろ訊いてみると、人によって配信された速報がバラバラだったことがわかりました。
15時過ぎに茨城県沖で起きたものが配信された人もいれば、その後に三陸沖で起きた群発地震のうちいくつかが配信された人もおり、その両方が送られてきた人もいれば、筆者のようにまったく来ていない人もいたのです。
なぜ、このようにバラバラなのか、さっぱりわかりません。震災時、筆者は常に電波状態の良いところにしかいなかったのです。
すべての人にきちんと送られない「緊急地震速報」など、意味がありません。「緊急地震速報」を所管している人たちは、配信が共通ではなかったことについて、ちゃんと説明をするべきだと思います。
井上トシユキ