若手の中に「管理職になりたくない」人が増えていることを嘆く声は多い。しかし、管理職がどんな役割を担っているのか、何が求められるかを明確に言える人は多くない。それどころか「人事が主催した研修を受けたが、よけい混乱した」という声すら聞こえる。会社は十分理解してやっているのだろうか。
「積極性」「規律性」と唱えても行動は変わらない
都内で大手・中堅企業をクライアントに持つ、人事コンサルタントのN氏。「同業や顧客批判になるので匿名で」という条件で、企業の人事部から依頼のある「管理職研修」について、実態を明かしてくれた。
「まず依頼内容ですが、研修の目的に『管理職の資質向上』を掲げて丸投げしてくる人事が少なくないんですが、この時点で考えの浅さが分かりますね」
「資質」とは、生まれつき持っている性質のこと。そんなものを会社の研修で向上させることはできない、というのだ。では、どこに焦点を当てればよいのか。
「これは当然、『発揮』レベルのはずなんです。『資質』を揃えたり高めたりするなんてムリでムダな課題を掲げるから、わけの分からない研修になる。重要なのは『行動』であり『成果』なんですよ」
現状の研修では、講師が「管理職に求められるコンピテンシー」として高業績者の行動特性を列挙し、受講者が「積極性」や「規律性」「責任性」などの言葉にマーカーを引く。しかし受講者はその後、具体的に自分の行動をどう変えていけばいいのか分からない。
「それでも、受講後の感想文に『意識が高まった』と書く人がいれば、人事は自分たちの研修の成果はあったとか、こいつは分かっているとか言って安心するのです。虚しい話です」
実際、研修中におこなうミニゲームの様子や、研修後のレポートなどで高い評価を受けた人が、「管理職の資質を備えている」として昇格することが多い。しかし、その手のテストが得意な知能を持っていても、組織力の向上につながるとは限らないばかりか、かえって逆の結果となることもしばしばだとか。
「経験値」を擬似的に上げられるなら役に立つ
それでは、管理職の研修はどのように行えばいいのだろうか。N氏は、研修だけでどうなるものではないとしつつ、管理職に必要なのは高い「経験値」だという。
「ゲームをやっている人はよく理解していると思うのですが、大きな敵と戦うときにモノをいうのは、結局は『経験値』なんです。経験値の高い人間を管理職に引き上げるのがひとつのポイントだと思います」
とはいえ、年齢や社歴が上である必要はなく、限られた知識と経験を組み合わせて、現実の変え方の選択肢を多く持っていることが大切。
研修で経験値を擬似的に高める方法としては、管理職の「行動のセオリー」を知識として入れておくことが有効だという。部門の利益が下がったときに、コストを抑えながら売り上げを確保する方法にはどんなものがあるのか。部下の不正の兆しを、どうやって見破るか。
業種や職種によって異なる部分と、共通する部分があるが、「共通する部分」すら知らずに管理職になると、判断のスピードが遅くなる。
また、経験値の観点からいえば、よくできたレポートを書く人よりも「過去に失敗したことのある人」をあえて登用したほうが、経験を生かして活躍してもらえることもあるという。いずれも、一般的な「能力主義」「成果主義」とは逆行するようにも聞こえるアドバイスだ。