仕事を深めないと稼げるようにならず、ある程度稼げなければ豊かな生活が成り立たない。かといって、仕事にばかり没頭していると、自分の人生の幅が狭くなってしまう――。社会人なら誰もが感じうる矛盾だが、こんな働く個人の悩みを理解し声をかけてくれる上司がいたら、どんなにやる気が引き出されるだろう。
人生が充実しなければ仕事での成功もない
――入社3年目、何を頑張ればいいのかがちょうどわかってきた頃でした。当時は会社に認められることが何よりも大切で、そのために、毎日朝早くから出社し、お昼も食べずに、深夜まで働いていました。
一人暮らしのワンルームマンションに帰れば、5分で眠りについて、目が覚めたらシャワーを浴びて会社に出かける、そんな毎日でした。これだけ頑張っていれば上司も認めてくれるはずだ、という思いでした。
そして、年に一度の上司との話し合いの時。それまでにも、度々上司に褒められたことがあった私は、この調子で頑張れと激励されることを期待してその場に臨んだのですが、上司が口にしたのは、思いがけないものでした。
「君がこれから考えたほうがいいのは、人生には仕事より大切なことがある、ということだよ」当時、まだ20代の私には、この言葉の意味はよく理解できませんでした。
「出世がすべてじゃない」
しかし、この言葉は私の心の奥底に深く染み込み、少しずつ、自分の仕事と生活、そして人生を考え始めるきっかけとなりました。
そして、だんだんとわかってきたことは、仕事の成功だけを目指していても仕事は成功しない、ということ。生活と人生を見据えて仕事に取り組めば、常にバランスの取れた状態で、かえって仕事を頑張れるということです。
これが、まさに今でいうワークライフバランスです。私の上司は「仕事を頑張るな」と言ったわけではなく、「充実した人生のなかで仕事でも成功することを考えろ。長い目で見れば、人生が充実しなければ仕事での成功もない」というメッセージだったのです――
(高田誠著『P&G式 伝える技術 徹底する力』朝日新書、138~140頁より)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
著者は外資系のP&Gに勤務し、外国人上司の下で長年働いた後、自らも広報渉外部長として多くの部下を抱えた人。本書では「すべての人々により良い暮らしを」という目的を掲げたP&Gの経営や仕事の進め方を垣間見ることができる。多くの日本企業では「きれいごと」「理想論」と退けられそうだが、こんな経営を本気で徹底する会社がもしあれば、会社の規模にかかわらず有能な若者が殺到するのではないかと思う。