「新年になってね、友だちの家とか親戚の家に行くじゃない」。東京近郊に住む30代のデザイナー、A子さんの話です。
「子どもたちがね、みんなケータイゲーム機を持ってるのよ。でね、私が家に行って『おめでとう!』って話しかけても、ずっとゲームで遊んでいてあいさつもしないのよ」
静かに遊べば親もストレスたまらない
A子さんは、子どもたちの顔を覗き込んで、「お・め・で・と・う」と怒ったように言ったのだそうです。
子どもたちはゲーム機からちょっと顔を上げ、やっと面倒くさそうに「あ、はい、おめでとうございます」と答えました。
「そういうのって、親が叱らないといけないと思うんだけど、友だちも親戚も怒らないのね。どうなってるんだ、って思ってさあ」
でもね、と反論するのは、同席していた主婦のB子さん。
「実家に帰る道中とか、友だちを呼んでバタバタしてる時って、子どもにゲーム機を渡しておくと静かでいいのよ」
親の方から渡して遊ぶのを許可しておいて、それで叱るのも難しい、と言うのです。
2~3歳から幼稚園ぐらいまでの子どもがゴネだすと、それはもう悪魔を相手にするように大変だと、聞いたことがあります。
小学生になっても、忙しい時にワサワサとまとわりつかれると、さすがのお母さんもキレそうになるとも。
たとえば、狭い車のなかで泣きわめかれるよりは、静かにゲームで遊んでいてもらった方が、親のストレスもたまることがないのだとか。
子どものいない女性「しつけはしつけ」
「だけど、お客さんへのあいさつって、それとは別問題のしつけ。そこは、ちゃんとしないとダメなんじゃないの?」
結婚はしていても子どものいないA子さんは、それでも納得できない様子。
「それはそうなんだけど、変なタイミングでゲーム機を取り上げて、それで泣いたりわめかれたりすると、元の木阿弥になっちゃうのよ。ワンワン泣かれたら、かえってお客さんにも気を遣わせちゃうじゃない」
B子さんが反論します。
泣いたりして騒ぐ、あいさつをする、ゲームで遊ぶ時のオンとオフ、どれもしつけの話ではあります。
それを、ケータイゲーム機を間に挟んだトレードオフの話にしてしまうのは、ちょっと違和感が残ります。
とはいえ、B子さんの言い分もよくわかるし、A子さんの気持ちが善意であることもわかります。
突き詰めれば、それぞれの家庭のこと、となるのでしょう。成長して、ほかに熱中できることや楽しみを見つければ、おのずとケータイゲーム機との距離感も変わってくるのでは、と個人的には思うのですけどね。
井上トシユキ