「執行猶予4年、懲役40年」の憂鬱

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   よく、ネットなどで「執行猶予4年、懲役40年」というようなコピペ(定型文)を目にすることがある。就職を間近に控えた学生の内定ブルーを反映したものだと思うが、内容は意外に本質を突いている。考えた人はセンスがいい。

   実際、「飯が食えないので刑務所に入れてください」という人がたまにいるが、あれは「新卒カード」を持っていない人なりの、終身雇用的ライフスタイルの追求なのだろう。

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日本の雇用制度が持つ「ムショっぽさ」

   両者が似てしまうのは、日本の雇用制度が「とりあえず生活は保障されるけれども、生活の裁量がほとんどない」という「ムショ的特徴」を持っているためだ。

   これは、雇用保障とのバーターで、勤務地や仕事内容、休暇取得から労働時間といったすべての決定権を会社に差し出した結果である。終身雇用で働く以上は、運命と思って諦めるしかない。

   たまに「欧米並みのワークライフバランスを実現しよう」という人がいるが、本気でそれをやったら終身雇用自体が崩壊すると思われる。

   なので(この国に終身雇用制度が残る限り)男女の賃金格差同様、終身雇用の暗黙のルールとして、「ムショっぽさ」はこれからもずっと日本企業内部に残り続けることだろう。

   ところで、両者には大きく異なる点も一つだけある。刑務所の場合、本人にやる気があろうがなかろうが、実刑さえ食らえば収監してもらえるわけだが、企業の場合は商売でやってるわけだから、面接でやる気を見せておかないと入れてもらえない。

   というか、「安定が欲しいので入れてください、何でもやります」なんて言ったら絶対内定はもらえないと思われる。

   要するに「安定性」が売りなのに、「そんなもの必要ないね」というヤンチャな人材を採らなければならないわけだ。ここに、日本企業最大のジレンマがある。

   当然ながら、採用過程ではそういった「非ムショ型」が評価されて優先的に入社するわけだが、内部は相変わらずの「ムショ型」である。

閉塞感をもたらす「目に見えない壁」

   日本人は相変わらずドイツやフランス人より年間300時間以上多く働き(20代はさらに100時間以上多いはず)、有給休暇は半分もとらず、勤務地も勤務場所も選べない。

   というか、いまだに配属されるまで何をやらされるか分からない会社の方が多い。これはこれで、結構な閉塞感だと思われる。

   雇用問題というと、つい非正規雇用の側にばかり目が行ってしまいがちだが、世代内の勝ち組であるはずの若手正社員の側から「満ち足りた幸せな声」があまり聞こえてこないのは、こういった事情があると思われる。

   今の就職活動が不毛なのは、そういった本音を隠したままで、応募する側も採る側も「仕事大好き、そして会社も大好き」という虚構を演じているからだろう。

   僕が言っている労働市場の流動化というのは、言いかえれば「双方が本音で契約交渉する市場を作りましょう」ということだ。

   40年耐えろと言われれば、誰だって出社は辛い。その一歩には40年分の重みがあるからだ。でも、いつでも押せて、押すことがそんなに不利にならないリセットボタンさえ持っていれば、少なくともその人の見る景色はムショとはまったく違うものだろう。

   閉塞感をもたらす壁が、常に目に見えるとは限らない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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