民主党の数々の政策を見ていると、なんとも中途半端で玉虫色だという印象を受ける。当初は「子ども手当」の所得制限を世帯年収1000万円以上としながら、突然2000万円以上に引き上げるなどと言いだしたのが典型だ。
給与所得控除の上限も1500万円という、なんとも微妙な金額で、それについて聞かれた海江田経済財政担当相は「1500万は富裕層ではない」などと言ったという。
要するに、「小泉改革反対!格差社会反対!」とかなんとかいって政権取った割に、微妙にアクセルを踏みきれていない感があるのだ。
一方、妙なところではアグレッシブで、「武器輸出三原則」なんて言われてもいないのに勝手に緩和しようとしている。民主党政権のこのチグハグぶりは、どこから来るのだろうか。
すべては支持基盤の「連合」ありき
結論からいえば、彼らの最大の支持基盤である「連合」の存在がすべてだろう。
言うまでもなく連合は、大企業の正社員を中心とした労働組合であり、中でも製造業の影響力はとてつもなく大きい。現閣僚にも大畠経産相(日立労組)、高木文科相(三菱重工労組)といった労組出身大臣が並ぶ。
このあたりの労組幹部になると、普通に年収1000万円は越えているし、共働きなら1500万円は堅い。
つまり、民主党にとっての大切なスポンサー様を優遇するためには、どうあっても「金持ちの定義」を最低でも1500万以上に設定する必要があったということだろう。
武器輸出については言うまでもない。防衛産業は重厚長大系から電機まで含めた一大製造業である。
現政権の本質とは「大手労組政権」であり、左派とかリベラルなんてキーワードは寂しいからオマケでつけてみたデコレーションみたいなものなのだ。
現状に甘んじず自分への投資を怠るな
ただ、これをもって、彼らが「堕落した左翼」だというつもりはない。社会党、共産党といった革新政党は、もともと1950年代から大企業・官庁の労組を最大の支持基盤としていたからだ。橋本健二著『「格差」の戦後史-階級社会 日本の履歴書』(河出書房新社)は、その構図をズバリ指摘している。
「おそらくは、離陸を果たして生活水準を向上させた大企業・官公庁労働者に取り残された中小零細企業労働者たちは、さらなる労働条件の向上を訴える巨大労組とこれに支えられた革新政党に見切りをつけたのではないだろうか」(本書より)
常に大企業や官庁の労組とともに行動し、市場原理を無視した要求を掲げ、気がつけば下請けへの支払いカットや増税という形で、ツケだけが中小零細、非正規雇用労働者たちへ回される。
結局のところ、40年以上昔から、彼ら既存左翼は「中流より少し上」の味方だったということだ。その系譜に位置する現政権は、見事なまでに、先輩達にならった政治商売を繰り広げている。堕落というよりも、いたってオーソドックスな「日本の左翼」である。
日本の政治が1ミリも前に進んでいないのは、しょぼいスポンサーに気を使うあまり、何も本質的な改革にメスを入れられないからだろう。
こういうチープな政治ゴッコを見せつけられた学生が、公務員や大企業を志望するのは、不幸なことだが仕方のないことかもしれない。別に、大手に行くなとか公務員になるなとは言わない。
ただ、それに甘んじることなく、自分の人的資本に投資しておくことをおススメする。民主党がどれほど、靴を舐めるように連合に奉仕したとしても、税収が増えるわけでもないし、財政赤字が減るわけでもない。
仙谷官房長官ご自身が認めるように、もうすぐ「労働組合ボーナスステージ」は終了せざるを得ないだろう。
その時になって損をするのは、既得権という名の身分の上にあぐらをかいていた人間だということは、歴史を見ても明らかである。
城 繁幸