2009年の12月にダイヤモンド社から発売された『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』。半年で100万部を超える大ヒットとなり、2011年3月にはNHKでテレビアニメ化が予定されているようです。
「もしドラ」という愛称もついたこの本は、ビジネス書をストーリー仕立てにしたことと、お堅いイメージを破る女子高生のイラストを添えた装丁にしたことが、幅広い読者に支持された理由ではないでしょうか。
概念を広めるよいきっかけにはなった
この本に影響を受けて、書店ではドラッカーの本が、かなり売れていると聞きます。また、地味な表紙が並んでいたビジネス書コーナーには、アニメキャラとコラボした本が続々登場し、一気に華やかになりました。
一部で「内容的に物足りない」という批判もあるようですが、埋もれていた良書が見直されるいい機会になったのではないでしょうか。特に若いビジネスパーソンや学生が、マーケティングやイノベーション、マネジメントといった概念を知るきっかけになったと思います。
私はマンガだろうが映像だろうが、どのようなスタイルでビジネスについて学んでも構わないと思います。ただ、ビジネス書で学んだ専門用語やフレームワークを知るだけで終わらせずに、実戦で有効に使える人が増えるかどうかが気になるところです。
実際、チームの責任者となったり、企業の経営に関わったりしたときに、数字をどう読んで判断するか、組織の構成員に対してどう関わるかなどは、まさに当事者だけが臨機応変に判断できることであって、後付けした正解など意味がありません。
結局、大切なのは、現実において優れた結果を出すことであり、マネジメントの概念や知識は手段のひとつに過ぎません。
一方で、ドラッカーを読んだことがなくても、ドラッカーが指摘したことを自然とこなして、優れた行動を取っている人もいるわけです。
本質は行動にあり。概念は手段である
ある商社に勤める30代のFさんは、年間で100冊近いビジネス書を読破しているそうですが、振り返ってみると「仕事で役に立てた記憶はあまりない」とのこと。
もちろん、楽しみで読む行為は否定できませんし、私もビジネス書をたくさん出しているので、購入して読んでくれる人がいることはとても嬉しいことです。
ただ、ドラッカー自身も『イノベーションと企業家精神』で言っているように、
「企業家精神とは気質の問題ではなく、行動の様式である」
ということは間違いありません。
また彼は、「リーダーシップの本質は行動にある。リーダーシップそれ自体はよいものでも望ましいものでもない。それは手段である」(『未来企業』)とも言っています。
本を読んで分かった気持ちになり、思考や行動が停滞してしまうことは、本を読む弊害にすらなります。これを回避するために、ビジネス書は自分自身が抱える「課題」を意識しながら読むべきでしょう。
とはいえ、目の前の業務課題や作業上の問題に対する答えをドラッカーに求めても、出てこないかもしれません。
しかし、たとえば「事業の目的として有効な定義は唯一つ、それは顧客の創造である」(『現代の経営』)という言葉を、自分の会社や仕事に引き付けて考えてみることはできます。
そのような大きな視点で物事を見直しつつ、次に自分が何をすべきなのか考え、実際の行動に取り込んでいくことで、初めて読書が活きてくるのではないかと思います。
高城幸司