先日、京都地裁で画期的な判決が出た。定年後再雇用となった嘱託契約の従業員も、本人が希望する限りは65歳まで雇えというものだ。少なくとも、年金支給開始まで職が保障されることとなった団塊世代の正社員は大喜びだろう。
若者の期待権はどうでもいいのか
でも、仕事の後から予算がついてくるのはお役所だけで、普通の会社は「最初に予算ありき」である。つまり、誰かの職を保証するということは、別の誰かを切らないといけない。
というわけで、ババを引くのは誰なのか。経営者になったつもりで考えてみよう。
・非正規雇用
まあ嘱託も非正規なのだけど、65歳まで雇えとのことなので仕方ない。その他の契約社員や派遣社員を切ることで対応するしかない。特に直接契約ではない派遣は、もっとも切りやすいソフトターゲットだ。
・下請け企業への支払いカットITゼネコンからテレビ局まで、困った時に下の身分から絞り取るというのは、江戸幕府以来の日本の伝統文化である。日本は企業規模でみた賃金格差が先進国中最大であるが、これは大手が弾よけ代わりに下請けを使っているからだ。
「大企業の経営者が悪い」なんてことを脊髄反射的に言う人がいるが、今回の件を見ても明らかなように、こと雇用に関しては「大手の労働組合が悪い」と言うべきだろう。
・新卒採用の抑制それでも、コスト増加分をカバーできない企業は、新卒採用を抑制するしかない。なんといっても頭数の多い団塊世代の実質的な定年延長なので、相当な負のインパクトがあると思われる。
ついでに言うと、これからは「65歳まで雇うに値する人材かどうか」で判断されるわけだから、新卒採用自体のハードルも引き上げられることになる。団塊世代の期待権は大事に守ってもらえるけど、これから社会に出る人の期待権はどうでもいいってことだろう。
「負担押し付け」にノーと言おう
という具合に、非正規雇用、中小下請け企業、学生がババを掴まされるわけだ。
一番給料が高くて、ずっと正社員で働き続けてきた人がさらに豊かになり、その真逆な人たちがさらに貧しくなるのだから、法律というのは何とも不思議なものである。
で、こういう動きを裏でサポートしているのが、普段は格差、格差と口やかましく騒いでいる人たちだというのは、もっと不思議な話である。
僕は団塊世代の退職によって、彼らとの雇用争奪戦は終わったと考えていた。でもそれは甘かったようだ。
これからも彼らは厳然と社会に存在し続け、様々な形で現役世代に負担を押し付け続けるだろう。
当事者である我々自身が声を上げない限り、彼らの連勝記録をストップさせることはできない。
城 繁幸