短絡と不寛容 「ケータイ通話殺人」の予感

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   先ごろ、千葉県内で走行中の路線バス車内で、携帯電話で話していて注意された女が催涙スプレーを噴射、乗客3人が軽傷を負う事件がありました。

   34歳の会社員という女は、バスの運転手から乗車拒否を宣告されて腹を立て、初老の乗客に「いい加減にしろ!」と怒鳴られて逆ギレ。いきなり催涙スプレーを車内に噴射した、と報じられています。

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電車内では「うるせぇ、ジジィ!」

   「このニュースを知って、他人事じゃないと思った」と話すのは、山手線と地下鉄を使って通勤する30代の女性OL。

「最近、多いんですよね、電車内でケータイの通話をしてる人。だいたい、私と同じ30代ぐらいが多い。使ってる地下鉄は、途中から地上に出るんですが、それを待ちかねたかのように通話を始めるんですよ」

   始発から最終まで混雑する山手線でも、ケータイで喋っている人を見かけることが増えたと言います。

   そう言われて、山手線の車内でケータイで通話している人を見かけたことを思い出しました。

   OLさんと会った当日、昼頃のことです。

   スーツを着て首から社員証をぶら下げたサラリーマンが、2駅ぐらいの間、わりと大きな声でケータイの通話をしていたのでした。

   山手線の各駅間は、2分から3分。2駅だと、5分ぐらいは話していた計算になります。

   うんうんと、私の話をうなずきながら聞いていたOLさんが続けました。

「電車の中で5分って、体感時間、長くないですか?いつまで喋ってんだよ、このヤローみたいな」

   ラッシュほどではないにしろ、山手線など混むのが当たり前の車内にいてすぐ側で通話をされると、「もの凄く長い時間、迷惑を受けた」という気分になるのは確かです。

「でしょう。で、だいたい初老ぐらいの男性が注意するんです。迷惑だから止めなさい、って。たまに女性もいますね」

   ここで済まなそうにするのは良い方だとか。

「バツが悪そうに無視するのも、まだマシ。怖いなと思うのは、食って掛かる人が明らかに増えていること。なかには、胸ぐらにつかみ掛かるのまでいる。
この間も、『うるせぇ、ジジィ!』って、いきなり大声で怒鳴った男がいて。『電車で通話するなって法律でもあんのかよ!』って、子どものケンカかよ、と。やっぱり、フツーに今風の30代サラリーマンなんですよ」

怒る方も威丈高ならケンカになる

   怒鳴って電車を降りるかと思いきや、さにあらず。

   そのまま乗車を続け、いったん切った電話をかけなおし、通話を続けていたのだそうです。

「笑っちゃいそうになったのは、通話の相手が客先らしくて、顔はふて腐れてるのに言葉は敬語。声も猫撫でなんです。
何も車内でかけなくても、途中下車して駅のホームからかければいいのに。そこまで忙しいのか、降りるということを思いつかないのか…」

   一方の怒る方も、威丈高だったりケンカ口調だったりするケースが目につくようになっているとか。

   「いい大人どうしがみっともない、と思わないのかしら」とOLさん。

   短絡と不寛容。ここ10年ほどの間に、なぜか日常で顕著になっている気がします。

   生活、経済、政治が軒並み不安定で、先が見えないことが短絡と不寛容を増幅させているのでしょうか。

   そもそもマナーとは、集団生活においてお互いに不快にならないように譲り合いましょうね、という知恵だったはず。

   杓子定規に自己主張ばかりしていては、本当に「ケータイ通話殺人事件」が起こりかねないと思うのですが、どうでしょうか。

井上トシユキ


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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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