IT会社の開発部門で、プロジェクトリーダーを務める30代後半のAさん。毎晩、遅くまで仕事をしていますが、先日、クライアントへの納品を済ませて帰ってきたところ、20代後半の部下Bさんが仕事の片づけをしていました。時計はまだ8時。翌日の朝イチで打ち合わせがあるAさんは、いつもより早めの食事を取ろうと考えました。
「あいつ大丈夫か」という話題もダメ?
そこでBさんに、一緒に飯食いにいくか、おごるよと声をかけたところ、
「えー、別にいいですけど。仕事の話とかナシですよ」
という返事。ただ腹が減ったから聞いただけだとAさんは言って、会社近くの定食屋でビールを頼みました。
何杯目かのビールを飲んだころ、Aさんは、部下のCさんが最近休みがちなのをふと思い出しました。
プロジェクトの締め切りにはまだ時間があり、作業は挽回可能ですが、彼の「体調不良」がどの程度なのか、気になります。
そこで、「Cって最近よく休んでるけど、体調大丈夫なのかな。ここのところ忙しくて、様子が分からなかったんだけどさ」と尋ねると、Bさんは待ってましたとばかりにAさんを指差し、中腰になって、
「ほーらほらほら、やっぱりそうじゃないですか。仕事の話はしないって言ったのに!」
と大声をあげて文句を言います。Aさんは、一瞬しまったかなと思いつつ、「お前さあ、同僚の調子が気にならないの? それに、会社に関係する話だけど、仕事の話じゃないだろ」と反論すると、「会社の話は全部、仕事の話です」というキッパリとした返事。
言い合いもコミュニケーションの一種
仕事の話というのは、あそこに請求書は出したかとか、提案書はどうなったとか、最近の成績は悪いとか、そういう話だろ、いやそうではない、などと言い合いになった末に、Aさんは、
「共通の同僚のことくらい、世間話みたいなもんだろ。それともお前の好きなネットゲームの話とか、俺にしろって言うの? それはムリだよ」
と、つい口にしてしまいました。
Bさんは、「だからイヤなんだよ、一緒に来るのは」とブツブツ言いながら、とりあえず注文したものを一通り飲み食いして、2人で帰ったそうです。
Aさんによると、Bさんとの関係は、その一件で悪化したのかと思いきや、「特に変わってもいない」とのこと。
逆に、こころなしかBさんからAさんに話しかけてくる回数が増えたような気もするそう。
コミュニケーションというのは、お互いの考え方に共感できなくても、ただ知ることができるだけでいいのかもしれません。