大手企業が事業のグローバル化を進める戦略を打ち出し、若手幹部候補を積極的に海外に送り出そうとしている。一方で、新人の半数は「海外で働きたくない」という調査結果がある。企業の動きが若者の「国内志向」を打ち破るきっかけになるだろうか。
高望みせず地元志向の強い「ゆとり世代」
産業能率大学が2010年4月に新卒採用された新入社員400人に「もし海外赴任を命じられたら」と尋ねたところ、「喜んで従う」と答えた人は33.0%にとどまった。
「命令ならば仕方なく従う」という人も40.0%いたが、「何とか断れるように手を尽くす」(21.8%)、「退職覚悟で断固断る」(5.3%)という回答もあったという。
また、「海外で働きたいか」という質問には、49.0%が「働きたいと思わない」と回答。理由は「リスクが高いから」「自分の能力に自信がないから」「魅力を感じないから」という回答が上位を占めている。
さまざまな社会問題があるとはいえ、大手企業に勤めていれば日本は居心地のよい場所だ。しかし、成長する新興国を含めた海外市場での競争に勝てなければ、そんな安泰の場も維持できなくなってしまうだろう。
キャリア教育プロデューサーの新田龍氏は、「ゆとり世代」の高校生や大学生に、二極化の傾向を感じているという。大手志向で、若いうちに海外で経験を積んで成長したいという人はいるものの、国内志向、地元志向が非常に強い保守的な人も少なくないという。
「保守的な学生は、高望みせず、自分が住みなれた場所の近くで大学生活を送ったり、就職したりしたいと考えている。地元に仕事はないと分かっていても、テリトリーを離れたがらない人が意外と多いんですよね」
そんな若者気質をよそに、企業側は見通し不透明な国内需要へ見切りをつけ、新興国を含む海外市場で成長を確保しようとしている。大手企業を中心に、人材面での施策を打ち出すところも出てきた。
大手企業「国内でしか働きたくない人は要らない」
アサヒビールは国際事業を担う人材を育成する「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム」を、2010年9月から開始する。社内公募と国内研修などによって選抜された20~30代の若手社員10人を、海外7カ国の拠点に最大1年間派遣。現地で仕事の補助をしながら、海外ビジネスの経験を積ませる。
日立製作所でも、2012年春以降に入社する大学以上の新卒社員について、事務系はすべて将来海外赴任の可能性がある「グローバル要員」として採用するという。全員が海外に配属されるわけではないが、
「国内でしか働きたくないという人は要らない」
という会社の明確な意思を表しているようだ。
若手に海外勤務の経験を積ませることで、語学のスキルを実地に磨くことはもちろん、ビジネス上のルールや生活環境を身につけさせる。海外の現場の実態を知ることで、今後のグローバル展開のヒントを掘り起こすことも期待できる。
収益を確保したい大手企業にとって、海外市場の成長は頼みの綱。アサヒビールは海外売上高比率を15年12月期には20%超に、日立は12年度には50%超に引き上げることを目指しており、若手人材の海外派遣の位置づけは大きい。
前出の新田氏も、学生たちはグローバル化の流れが現実になっていることは、頭では分かっているはずだという。
「豊かな時代に育ったから、いつまでも動きたくないと思っているのかもしれないけれど、そこにはもう仕事はない。動かないことは危険だということは折に触れて伝えているのですが、企業の動きが彼らにどう影響するかは未知数ですね」