日本には終身雇用という世界でも稀に見る変な雇用制度があるので、労働組合もすごく変わっている。世界標準では「職種別組合」という仕事ベースで企業横断的な組合なのだが、日本は会社ごとに「企業別組合」を作って小さくまとまっているというのが現状だ。
「組織横断」なら労働条件は改善する
終身雇用というのは設計上、人の行き来のない閉じた世界なので、当然と言えば当然かもしれない。朝日新聞と読売新聞で組合組織したって意味がないためだ。
組合といったって、構成はその会社の社員100%なわけだから本当に言いたいこと言えるのかという議論は昔からあったが、逆に社員であるがゆえに合理的な労使協調路線を維持できたというメリットもあった。
ただ、こういう企業別組合は終身雇用が維持できていたうちは良かったものの、雇用が不安定な時代になったり転職が一般的になったりしてくると、色々と無理が出てくるようになった。
一社内で労使でゴニョゴニョやっていたって、できることなど高が知れているためだ。
この辺の事情について、政局が流動化し、結果的に職員の雇用も流動化しつつある政党をモデルに説明してみよう。
今はなんの労組もないけれど、仮に彼らが「永田町政党職員労組」を結成した場合、どんなメリットがあるか、という説明だ。
・新規に採用する場合には組合員を優先する
労組と主要政党の間で「新規に採用する場合、組合員を優先して採用すること」という協約を一本結んでおけば、政権交代でリストラされても職にあぶれる心配はない。
政党としても、事務作業のノウハウのある経験者を優先して採用できるメリットがある。
・政党に中立な第三者組織として労働条件のチェックを行う
私設秘書などのスタッフ職は、そこらのブラック企業なんて目じゃないくらいブラックなのだが、これまで問題化することはなかった。
理由は簡単。与党はもちろん、金のない野党の方がむしろブラックなので、お互い臭いモノには蓋をしてきたわけだ。政党横断的な労組ができれば、特定の政党に配慮することなく、共通のコンプライアンスを要求することができる。
「組織横断」で人材を流動させよ
職種別の労組を立ち上げることで、ざっと見ただけでもこれだけのメリットが享受できるのだ。
どの政党が勝とうが、政治の事務方というお仕事の量は変わらないわけで、流動化を前提に制度設計した方がいろいろと好都合というわけである。
現在のところは、自民も民主も「向こうの経験者は採用しないように」という申し渡しをしているそうだが、バカバカしい。適所適材、グローバル化の時代をなんだと思っているのか。
それでも「組織への忠誠心が必要だ」などというのなら、アドバイスは一つしかない。彼らを満足させられるだけの処遇を、議席数にかかわらず常に保証し続けることだ。
「痛みなくして成長なし」じゃないけれど、
「御恩なくして奉公なし」
である。愛社精神とか滅私奉公というのは、あくまでも雇用制度の副産物に過ぎないという事実は忘れるべきではない。
城 繁幸