ビジネスにおいて、確かな人間関係を築くことは重要です。その場限りの仕事やお金のやり取りだけでは、ビジネスは深く大きく広がっていきません。
「何をやるのかよりも、誰とやるのか」
にこだわる経営者がいるのは、よい人間関係を結べる人と働ければ、問題の解決方法は増えるし、モチベーションは維持できるし、自分のやりたいことが大きく広げられると考えるからです。
親しさが増したときほど要注意
ただ、人にはスキルだけでない個性があり、人間関係には相性というものがあります。時間をかけて自分を知ってもらったつもりでも、かえって関係を損なってしまうこともあります。そんな失敗談を紹介しましょう。
私の知人Dさんは、お客様との親交を深め、ビジネスに活かそうと考えて、2泊3日の泊り込みの研究会を実施しました。参加者は予想以上に集まり、「これで仕事はうまくいく」と確信していたそうです。
しかし、結果は真逆でした。「誠実で気配りができる人」という第一印象を受けるDさんですが、実は意外に短気なところがありました。自分のペースで手際よく物事が進まないと、ついイライラして瞬間的に怒りを表す気性の荒さがあります。
親しさが増して油断したうえに、研究会の疲れもあって、彼は3日目に本性を出してしまいました。あるお客様から話しかけられたときに、
「ちょっと待ってくださいよ! そのことは後にしてもらえませんか?」
と苛立ちをあらわにしてしまったのです。
この一言を聞いてしまったお客様は、彼へ抱いていたそれまでの好印象が一瞬でゼロになりました。
最初の言葉と矛盾するようですが、確かな人間関係を築くためには「仕事は仕事」「会社やビジネスは友達づきあいではない」と割り切り、緊張感を保ちつつ、相手を理解して敬う姿勢をきちんと貫いた方がよいのではないかと思います。
「礼儀」は儀礼ではない
ビジネスにおいては、確かな人間関係は大きな価値になりますが、それ自体が目的になることはありません。また、大事なビジネス上のパートナーと相性が悪くても、それをコントロールすることは困難ですし、自分の本当の性格を変えることも簡単ではありません。
したがって、逆説的になりますが、人間関係を強くしたければ「親しき仲の礼儀」に心がけることも重要になってきます。
まずは、しっかりと相手の話を「聞く姿勢」を心がけること。Dさんのように相手の話をさえぎるのは禁物です。相手の発言に関心を寄せていることが分かるように、表情豊かに傾聴しましょう。
また、相手の「重要な発言」を忘れないことも大切です。忙しく重要な決定権のあるような人ほど「この前、君に頼んだことだけど」ということを覚えていますし、自分が引き受けた約束を守りたがります。
傾聴と言っても、ただ黙って聞いていればいいわけではなく、「的確な発言」をすることも重要です。詳細について質問を投げかけることも効果的ですし、ほめたりたたえたりすることも相手の気分を良くさせます。
このほか、「あいさつ」や「言葉遣い」「礼儀」「約束」「身だしなみ」といった要素の積み重ねによって、相手への関心と敬意を示すことが、結局は人間関係を確かなものにします。
「あの人とは何度もカラオケに行ったから大丈夫」
「この前も飲みに行ったからよく知っている」
といったことは、一時的な親密さを作りますし、きっかけとしてはよいと思いますが、簡単に崩れない信頼関係を作るためには、自制心を持って公私のメリハリをつけることの大切さを肝に銘じておくべきでしょう。
※久しぶりに「ビジネスリーダーの情熱と哲学」の収録をしました。今回のゲストは、株式会社あきんどスシローの加藤智治氏。インタビューの動画はウェブサイトで無料でご覧いただけます。
高城幸司