霞が関でのヒアリング調査によると、栄えある残業時間第1位は厚生労働省だそうである(霞が関国家公務員労働組合共闘会議実施)。霞が関が午前様というのは昔から有名な話だが、それにしても平均70時間というのは結構すごい。「俺の方がもっと残業してるぜ」という残業ジャンキーは、がっついた本コラム読者の中には多いだろうが、組織全体で平均70時間というのはかなりハイレベルだ。
官僚の仕事が多ければ人を増やすしかない
日本型組織の中には、ぶっちゃけ無くても困らない閑職というのが3割程度はあるし、40過ぎて主流を外れたおじさんや女性たちもそんなに残業はしないものだ。
そういうのを全部ひっくるめて平均70ということは、2~30代の男子なら120時間くらいは残業しているはずである。過労死ラインを余裕で超えている。大変だ。優秀な厚労省の官僚の皆さまを救うためにも、何とかしないと。
というわけで厚労省の残業対策を提案しようと思うのだが、答えは分かり切っている。「仕事が多いのだから、単純にもっと人を雇え」ということだ。2人で120時間の残業をしている課があれば、新たに1人採って1人当たり40時間以下に抑えればよい。
その場合、以下のような課題が出てくると思われる。
1.お給料はいくら払うの?
日本型雇用のフラッグシップたる厚労省はもちろん年功序列なので、新卒なら300万ちょっとで済むが、40歳くらいなら800万と2.5倍以上も払わないといけない。といって、まさか厚労省が「25歳以下限定!」なんて求人票に書くわけにもいかないだろう。いったいどうするんですかね?
2.キャリアパスはどうなるの?
人を採るのはいいが、ゆくゆくは報いるためのポストも必要である。ポストの数も比例して増えていく時代ならいいが、今はデフレ期であり、作業は増えてもいらないポストは増やせない。これは税金で食わせてもらっている官庁も同じである。よって、採ったはいいが彼らを待つのは使い捨てor飼い殺しという運命だ。
3.仕事が暇になったらどうするの?
そして最大の問題がこれ。仮に政権交代してやる気のない大臣がくるか、あるいは年金問題等が解決して暇になったとき。仕事のなくなった人員をどうするのか。もちろん、「どこかに天下りさせる」とか「省内で遊ばせておけばいいじゃん、どうせ税金なんだし」とかいうのはナシだ。ちゃんと厚労省という役割に見合った人件費の枠内で、彼ら余剰人員をどう扱うのか?
プリズンブレイクの期限は近い
以上の3点は、そのまま日本人サラリーマンの残業が長い長いと30年以上前から言われながらも、一向に減らない理由である(同時に、中高年失業者がなかなか採用されない理由でもある)。一言でいえば、仕事の需要に応じて柔軟に雇用する仕組みになっていないのだ。
対策は言うまでもない。仕事内容でお給料を決め、後から自由に見直せるように流動化する以外にない。忙しい部署があれば、そこの仕事内容に応じた年俸で中途採用する(もちろん年齢性別不問で、だ)。
彼の職務内容が上がれば報酬を上げればいいし、仕事が変われば賃下げするなり(場合によっては)解雇すればいい。これによって、長時間残業対策と雇用対策が同時に行えるわけだ。
なんてことをつらつらと考えていたのだが、先日発表された平成22年版の労働経済白書によると、厚労省はこれから先も日本型雇用を死守するそうだ。要するに上記のような改革は一切やる気がないですよということになる。
50代の幹部は安泰だろうが、2~30代の若手は覚悟した方がいい。君たちは月100時間超の残業をこなしているだろうが、上のポストは無能な先輩たちでごった返し、(財務省主導の仕分けで)天下りも制限されるため、その道はすでにどこにも続いていない。
今、机の上にある書類の山を片付けても、来週になればまた積み上がっているし、10年先もそれは変わらないだろう。(60歳-年齢)年の懲役刑を食らったようなものだと思って諦めるか、それとも霞が関からプリズンブレイクするか。民間の中途採用は35歳がリミットなので、決断するなら早い方がいい。
城 繁幸