「英語ができない執行役員は2年後にクビ」――。日本最大級のインターネット通販モールを運営する楽天の三木谷浩史会長兼社長の宣言が、ビジネスパーソンの間で話題になっている。日本の企業文化をも変えそうな取組みだが、本当に実現するのだろうか。
「言語能力と仕事の能力は別ではないか」
「クビ」宣言が出たのは、東洋経済オンラインでのインタビュー。楽天では、2010年3月から経営会議を、4月からは全社ミーティングを英語で行っている。さらに2012年末までには、社内では日本人同士であっても英語で会議をし、人事評価には英語力が反映されることになる。
この宣言に対し、ビジネスパーソンからは「本当にできるのか」「うちの会社も真似したらたまらんな」などの声が上がっている。不安や懸念の中身は、
「顧客もエンドユーザーも日本人。日本語ですべきことが山積みのはず」
「言語能力と仕事の能力は別。英語力ではなく、あくまでも業績で評価すべき」
「文書を正確な英語で作るのは負担だし、情報の流れも悪くなりそう」
といったものが多いようだ。
また、どの程度のレベルであれば「英語ができる」とみなされるのか、あいまいなところも不安を増幅している。ネット上には、NHKニュースで流れた三木谷社長の英語スピーチを引き合いに出して、
「このレベルの英語しかしゃべれないのに英語を公用語にするたあ、あまりにヤンチャ・・・『楽天的』というのか」
と皮肉る声も。とはいえ、今後TOEICの点数などの指針が発表されれば、仕事はできるが英語の得点がクリアできず、会社を後にする人も出るかもしれない。「帰国子女にかなうわけない。日本人をリストラするつもりか?」と疑う人もいるようだ。
「10年後の姿は誰にも分からない」という声も
外資系の企業では、どんな言葉が使われているのか。ニューズウィーク日本版編集部の山際博士氏によるコラムによれば、編集部の公用語は日本語。英語ネイティブの外国人スタッフも、全員が日本語を話せるという。
「もちろん海外とのやりとりには英語が必要だし、英文記事が読めなければ仕事にならない。だが日本人だけの企画会議を英語でやるなんて、想像しただけでぞっとする」
読者が日本人の出版物ではあるが、日本人同士では日本語で話しているようだ。あらためて楽天の企てが途方もない気がしてくる。ただ、楽天と取引のある会社の営業担当Aさんによると、少なくとも接点のある社員から不満を聞いたことがないという。
「みんな前向きでしたよ。そんなに騒ぎになっている様子でもなかったですし。いちばんのネックは照れなんじゃないの、と言っている人はいましたけど」
それよりも「楽天を世界一のインターネットサービス企業にする」「海外取扱高の比率を7割に上げる」「6か国だった海外事業展開を27の国と地域に広げる」という戦略目標の方が、より高いハードルと見られているのではないかという。
「いまの形しか知らない私たちから見れば、本当にできるのと思いますが、10年後には状況はまったく変わっているでしょうしね。将来の会社の姿がどうなるかは、三木谷さんや社員さんに掛かっているわけですから、外野がとやかく言うことではないでしょう」