日本生産性本部が毎年出している調査レポートによると、今年の新入社員は「ETC型」だそうだ。スマートフォンやクラウドといったITツールを使いこなす効率の良さはあるが、対面式の泥臭いコミュニケーションは苦手ということらしい。うまいこと言うと思う。
会社にとって新人はムラのオキテを知らぬ者
そういえば、過去にはどんなものがあったのか。ふと気になって調べてみると、「モツ鍋」だの「日替わり定食」など、なかなかユニークなネーミングが続く。毎年考える人も大変だろう。
ところで、過去のネーミングを眺めていて気づいたことがある。ETCから食い物、動物までと幅広いものの、いずれも「没個性、大人しい、扱いづらい」という点を含んでいる。新人なんて70年代前半から
「なんだか分からないけど、扱いづらい変な奴ら」
と思われていたわけだ。社会と学生の間にギャップが生じる理由とはなんだろう。
当たり前の話だが、教育は民主主義に基づいて運営されているから、新人はそういった自由で民主的、つまり「個人」を重視した価値観を抱いて組織に入ってくる。
ところが、日本企業の多くは今でも終身雇用を前提としており、それぞれオキテを持ったムラ社会だ。これは若者が持つ自由とか平等といった、個の価値観とは相いれない部分がある。
たとえば、有給休暇は労働者の権利なので、法律上は毎年消化することは可能だが、日本の平均取得率は5割未満、多くの労働者が権利を半分以上放棄している。また、明文化されているわけではないけれど、結婚や出産を機に退職せざるを得ないという女性は大手にも少なくない。これらはみな、民主主義とムラ社会のギャップである。
部長の新人時代は「人畜無害のムーミン」
端的に言うと、良きサラリーマンとは、そういった二重性を理解したうえで、ムラの内と外で適時使い分けることのできる大人といったところだ。外国人に、どうして日本企業には女性の事業責任者がいないのですか?と聞かれても、笑顔で
「ハッハッハ、チャーリー、日本の女性はショッピングに忙しいのさ!」
とジョークで返せるくらいでないとサラリーマンは務まらない。
さて、ちょうど今頃は、日本中で若者たちがムラで生きていくための儀式の真っ最中だろう。研修で社歌を大声で歌わせたり、涙を流しながらあいさつ練習させたりするのは、民主主義の垢を落とし、ムラのしきたりを叩きこむための儀式だ。
当然、つらいこと、苦しいこともあるかもしれない。そんな時は発想を変えてみることをおススメする。
バリバリ働く主任は、(理由はわからないけど)「モツ鍋」と呼ばれた男だった。こうるさい課長は、栄養過多だが活きがよくない「養殖ハマチ」。どんと構える部長は「人畜無害のムーミン」と呼ばれた過去がある。
ムーミンやハマチでやっていけるのだから、ETCの未来は明るい。
城 繁幸